21話① 私は嘘をついたことがありません 

「おねぇちゃんにもらってきたよ!」




 雲一つない夏空の今日この頃。

 私達3人は、本日も元気にフードコートに集まっています。

 耳をすませば蝉の鳴き声が…………聞こえませんね。

 あんまり蝉は見ません、ここ釧路では。


「みたい? みたい?」

「見たいです!」

「はよ出せ」


 じゃーん! という掛け声とともに、渚帆さんは少し得意げなお顔で、鞄からあるモノを取り出しました。

 はいきゃわいい。


「かつもくせよ! みなのもの!」

「ははー!」


 鞄から出てきたのは、思ったよりも大きめの…………でした。

 イタリアのローマにあるとても有名な石の彫刻ですね。

 元々は古代ローマ時代のマンホールだったとか。

 手を口に入れた時に、嘘やいつわりの心がある人は、手が抜けなくなったり嚙み切られてしまうといわれています。


 とはいっても、渚帆さんの鞄から出てきたのは、その真実の口を模したおもちゃ?    かなにかでしょうか。


 ちなみに北海道佐呂間ほっかいどうさろま町の道の駅、道の駅サロマ湖にはサローマの休日というモノがあります。

 手を入れるとどうなるかは……現地に行って確かめてみましょう






「じゃあ……もみじちゃんから! てーいれてくださーい」


 渚帆さんは真実の口を椛さんの方に向けました。


「は? いやだけど?」

「んん? これはあやしいですなぁ」

「そうですね。嘘や偽りがなければ何も起こりませんよ?」

「真実の口はな。こいつが持ってきたこれは何起こるかわからんだろーが」

「ええー。別にだいじょぶなのにー。じゃあ……」




 渚帆さんは唇を尖らせながら、真実の口を今度は私の方に向けました。

 あれ? 最初の実験台は椛さんでいいのではないですか?


「はい! こはるこちゃんどーぞ! ぐいっといっちゃって!」

「飲むのか?」

「よ、喜んで入れさせていただきます」




 にっこにこ笑顔で差し出された真実の口に、私は恐る恐る右手を近づけていきます。


 大丈夫。私は正直な子。嘘偽りなどございません。

 そ、そもそも渚帆さんが危険なモノを持ってくるわけありません。お姉さまに頂いたとも仰っていましたし絶対大丈夫です。絶対。

 ええい! ままよ!






「わっ!!」

「にゃっ!」


 私が今まさに口に手を入れようとした瞬間に椛さんが驚かせてきました。

 もう! 内なる猫が飛び出しそうになったじゃないですか!


「もみじちゃんひどーい」

「ぷふっ。わるいわるい……ほらなぎ、質問してやれよ」


 渚帆さんはジトっとした目で椛さんを見ましたが、すぐに気を取り直して、私に質問を投げかけました。




「はいかいいえで答えてください。あなたは今までに嘘をついたことがありますか?」

「いいえ」

「いやあるだろ。一回くらい」

「もみじちゃんはしずかにしててください」


 私は答えながら目を瞑ってしまいました。

 嘘など生まれてから一度もついたことはないので何も起こるはずはないのですが怖くて見れません。






「おかしいな。小春子の手がまだあるぞ」

「さすがこはるこちゃん! よいこ!」


 私はお二人の声が聞こえてきたのでゆっくり目を開けました。

 あれ? 確かに何も起こりませんね?


「よーしよし」

「でへへへへへへぇ」


 私は猫。

 渚帆さんは私の顎の下をよしよしと撫でて下さっています。

 清廉潔白に生きてきて良かったです。


「煩悩まみれで不純なこいつがなぜ平気なのか……」


 椛さんは未だに信じられないという顔で、真実の口を持ち上げててクルクルと回し見ています。




「あ! これスイッチ入ってねぇじゃねーか!」

「え! うそ!」

「……ちっ」


 私は素知らぬふりをしつつ椛さんから真実の口をそっと取り上げスイッチを入れました。


「今舌打ちしなかったかこのお嬢様は!?」

「してません」

「そうだよ! こはるこちゃんがそんなことするはずないよ! ね! こはるこちゃん!」

「はい!!」

「いっそ清々しいなこいつ……」






「じゃああらためて……はい!」


 今度はしっかりとスイッチが入った状態で、渚帆さんは椛さんに真実の口に手を入れるように促しています。


「……小春子にもう一回同じ質問してやらせてみ? 絶対面白いから」

「うぅ……椛さんがまた私を疑っています」


 私は自然の摂理に身を任せるまま渚帆さんにしなだれかかります。

 

「こら! いじめっこは早く手をいれる!」


 渚帆さんは私を抱きしめたまま真実の口に指を差しています。


「あたしの次はお前だからな。脳内桜餅黒髪お嬢様」


 椛さんはわけのわからない捨て台詞を吐き捨てながら真実の口に手を入れました。




「辛い食べ物は好きですか?」

「はい」

「ごはんよりパン派ですか?」

「いいえ」


 シーン。

 真実の口は微動だにしません。


「私も質問します!」

「やっちゃえ! こはるこちゃん!」

「ふん。こいよ」


 えーと。えーと。椛さんを落とし入れるいい質問は……




「渚帆さんのおっp…………膝枕して欲しいですか?」

「こはるこちゃん!?」

「……」


 ふっふっふ。

 恥ずかしがっていいえと答えたが最後。

 その左手に正義の鉄槌が下る事でしょう……そういえば機械が反応すると実際どうなるのでしょうか?






「いいえ」


 …………シーン。

 ば、馬鹿な……


「そ、そんな……まさか渚帆さんに膝枕して欲しくないというのですか!」

「こはるこちゃんおおきな声でなに言ってるの!?」

「切れだしたぞこいつ」


 おもち




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