15話④ 形に残るモノ
「しゃくしゃく」
スイカ割りは渚帆さんの圧勝で終わり、私達はお庭を見ながら座りスイカを食べています。
シャクシャクと心地良い音を立てて、スイカを頬張っている夏の女神であり化身の渚帆さん。
白ビキニに、上は大きめのパーカーという恰好になっています。
この娘あざと過ぎる! これが噂に聞く私を殺す服ですか? さっきより布面積は大きいのに、そのお姿に私はドキッとしてしまいます。
「渚帆さん」
「んむ?」
私は1つ思い付いたことがあり、渚帆さんに声を掛けます。
「パーカーのフードを被って頂けますか?」
「こうかな?」
よし。
「次に、手に持っているスイカを口元まで持っていってください」
「うん?」
パーカーのフードから首元に流れる少しウェーブのかかったくせ毛。
両手で口元にスイカを持っていき、きょとん顔の可愛らしいお顔。
そしてパーカーの下から覗く白く眩しいおみ足。
私は夏を完成させました。
「はーい。じゃあ、撮りますねー」
「しゃくしゃく」
夏をカメラに収めるべくスマホを構えます。
「モッツァレラチー……」
カシャッ!
「んなっ!?」
私が夏をカメラに収める瞬間でした。
「うまく撮れたか?」
塩の入った瓶を持って突如現れた椛さんがフレーム内に侵入してきました。
「ちょっと! 私の夏の自由研究を邪魔しないでください!」
「ちなみに研究テーマは?」
「夏と渚帆さんの因果関係についてです」
「……大人しくアサガオでも観察しなさい」
まったく! これじゃあ折角の渚帆さんのお写真が……
私は今撮った写真を改めて見返しました。
そこには、スイカを美味しそうに頬張る渚帆さんと、してやったり顔で塩の瓶をカメラに向かって構えている椛さんのお姿が映っていました。
「あ、あの、次は私も——」
「準備してきたわよ~」
私がお2人にお声を掛けたところで、リビングから渚帆さんのお母様がやってきました。
「こはるこちゃん今なにか言おうとした?」
「い、いえ! なんでもありません。それより見てください渚帆さん」
私はお母様が持ってきて下さったあるモノを指差します。
「あ! かきごおり作るやつ!」
ちっちっちっ。っと椛さんが指を振ります。
そうです。驚くのはまだ早いのです。
「渚帆さん。氷はもう入っているのでお皿をセットしてハンドルを回してください」
「うん!!」
渚帆さんは、ウキウキワクワクと身体の周りに擬音を纏わせながら、ハンドルに手を掛けます。
ボタンを押すと自動でかき氷が出来るタイプが主流でしょうが、古いタイプの自分の力で氷を削るタイプが私は好きです。
さあ、削られなさい。渚帆さんに削って頂ける勝ち組の氷さん達。
「入初渚帆! けずります!」
ガリガリガリガリ。
掛け声とともにハンドルを回し始める渚帆さん。
すると、かき氷機のペンギンを模した口の部分から、削られた氷が出てきます。
赤色の氷が。
「え! なんで!? 赤いんだけど!?」
「ふっふっふっ。それでは1口食べてみてください」
スプーンで氷を掬い恐る恐る口に運んでいきます。
ぱくっ。
目を瞑りながらその赤味がかかった氷を口に入れ味を確かめる渚帆さん。
「もむもむ。これは…………わかった! ス〇カバーだ!」
「正解です」
スイカバー。
説明はいりませんね。スイカのバーでス〇カバーです。
発売当初は当たり付きだったそうですね。
「どうなるかと思ったが意外とイケるな」
「そうですね。美味しくできて良かったです」
「よく見たらちょっとみどりの部分とか、ちっちゃく黒いとこもあるよ!」
渚帆さんはシャックシャックとかき氷の山を崩しながら楽しそうに笑っています。
スイカ割りもスイ〇バーかき氷もとても喜んで頂けたようで何よりです。
夏休み初日であり、大事な渚帆さんのお誕生日に思い出は残せましたかね。
その後はスイ〇バーに塩を掛けて大失敗したり、メ〇ンバーでかき氷を作ってみたりと実験を繰り返していました……あ。私の自由研究はこれでいいですね。
「じゃ、そろそろあたしらは帰るかね」
「そうですね。名残惜しいですが」
「えー! もーかえっちゃうの!」
時刻は午後4時過ぎ。
私達は少し早いですが帰り支度をし始めます。
「この後家族で買い物行って、夜はお誕生日会やるって帆波さん言ってたぞ」
「あ! そうだった……むー。じゃーしかたないかぁ」
「ご家族との時間も大切ですよ」
私達はブルーシートや子供用プールなどを片付け、帆波さんにご挨拶し玄関の外に出ています。
「なぎ。改めて誕生日おめでとうな」
「お誕生日おめでとうございます。ではまた連絡しますね」
「うん! 今日はほんとーにありがとー!! みんなより1つお姉ちゃんになったなぎをこれからもよろしくお願いします!」
渚帆さんは今日一番の笑顔で私達に笑い掛けました。
「それでは私達はこれで。本日はお邪魔しま——」
「——あ。1個忘れてたわ」
振り返って帰ろうとしたところで椛さんが唐突に言いました。
どうしたのでしょうか?
「写真撮ってないじゃん。3人で」
言いながら椛さんは私の方をチラッと見ました。
「誰かさんが途中からずっとソワソワしてたからなー。あぶないあぶない。後でやんややんや言われるところだった」
「え!? そうなの? もしかしてなぎそんな感じだった?」
「っ!」
椛さんの言葉に驚き私は下を向いてしまいます。
私は小声で呟きます。
「……だって。言うタイミングを伺っていたら、どんどん時間経ってしまって……それで恥ずかしいなーみたいな……」
「はぁ。そんな真っ赤な顔になることより恥ずかしいことなのかねぇ……」
「おかーさーん! 写真撮るからちょっときてー!」
夜就寝前。
私は布団の上に座りながら、3人で撮った写真を見返しています。
そこにはスイ〇バー両手持ちの満面の笑みの渚帆さん。
私の方を向いてニヤニヤしている椛さん。
そして、少し頬を膨らませながらも笑っている私が並んでいます。
私は今日余ったスイ〇バーの袋を開けて1口齧りました。
おもち
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