15話② サプライズは計画的に

「じゃあ、張り切っていくぞ!」

「はぁ〜」




 椛さんと渚帆さんのお母様に一通り弄られ倒し、私は入初家の広いお庭を見つめて溜息をついていました。

 なぜか対照的に椛さんのテンションは高くなっています。解せぬ。


 先程までは私服だったのですが、今は2人共、下は学校指定のジャージに、上はTシャツというラフな格好に着替えています。




「もうすぐお昼だし、流石になぎが起きてくるだろう。その前にちゃっちゃと準備しちまうぞ」

「……そうですね」






 INT(入初渚帆誕生祭)のプログラム一つ目は……スイカ割りです!


 7月27日(スイカの日)にこの世に爆誕し、スイカ大好き人間の渚帆さんのために、今からこのお庭でスイカ割り大会を開催します。


 諸々の材料は事前に購入し物置に置かせて頂いております。

 みんな大好きホー◯ックで買ってきました。


 一応説明致しますと、ホー◯ックとはここ釧路から始まり、現在では東日本を中心として広く展開している大型のホームセンターです。

 一般的なホームセンターにあるような商品は勿論、熱帯魚コーナーやペットコーナーなんかもあったりと、歩いて見て回るだけでも楽しいお店です。何年か前に名前が変わっていたりするのでご注意を。




「とりあえず何があってもいいようにブルーシートを引きましょう」

「おけおけ」


 椛さんは大きなブルーシートをお庭に広げました。


「次にこの子供用プールを膨らませてください」

「おけお……お前も手伝えよ」

「じゃあ、交代で空気を入れましょう」


 私と椛さんは子供用プールを交代でシュコシュコと膨らませます。足で踏んで空気を送るタイプのやつですね。




「いいですね椛さん! もっと踏んでください! もっと! もっと激しく!」

「ご近所さんに誤解されるからやめろ! ……はい次小春子な」


 選手を交代し、次は私が空気を入れていきます。

 えいっ! えいっ! 中々疲れますが楽しいですね。普段何かを踏むという機会はあまりないので。


「楽しそうだしそのまま続けててくれ。あたしは水入れるホースを準備してくる」

「はぁ! ……はぁ! ……わかりました! ……」






 踏み続けること更に数分。

 無我夢中で踏み続ける私に邪魔が入ります。

 文字通り水を差されました。


「きゃっ! ちべたっ!!!」


 ビシャッ!

 私の背中に水が掛けられます。


「ちょっと! 何するんですか!」


 私は勢いよく振り返って椛さんに抗議します。


「えー? 夏だし気持ちいいだろ?」

「気持ちいです!」


 そうだろうそうだろうと言いながら、椛さんはプールに水を溜めていきます。

 バシャバシャっと子供用プールに水が溜まっていく様子を眺めています。

 じー。




「椛さん」

「なんだ」

「私も水入れたいです」

「……いいけど」


 私は椛さんに、貸してくださいと右手を差し出しました。


「……」


 いいけどと言った割には中々ホースを手渡そうとしません。


「どうしました? 早く私にもやらせてください」

「……絶対なしな」

「何がですか?」


 椛さんは不安げな表情で私に告げました。


「渡した途端にさっきのお返しです! とか言ってあたしに水掛けんなよ」

「子どもじゃないんですから一々お返しなんてしませんよ」


 私はやれやれといった表情で、優しく椛さんからホースを受け取ります。






「さっきのお返しです!」

「うわびゃっ!」


 私は椛さんからホースを受け取った瞬間に、正面から水を浴びせてやりました。


「つめた!! ……一瞬でもお前を信じた私が馬鹿だった、よっ!!」

「わひゃっ!」


 椛さんはプールから水を掬って私に掛けてきました。

 濡れる私。そして地面に落ちるホース。


「うおお!?!?」

「きゃっ!?!?」




 水が勢いよく噴射したまま、その勢いで狂喜乱舞するホースさん。


「お前のせいだぞ! 小春子!」

「あなたのせいですよ! 椛さん!」






「ふふふ。青春してるわねぇ」


 蛇口に手を掛けたまま微笑んでこちらを見つめているお母様。


「ちょ、ちょっと! 早く止めてください! 帆波さん!」

「この! どうにか頭を捕まえられれば!」











「あー!!!!!!!!!!!!!!」


 突如上から驚きと羨ましさを含んだようなお声が聞こえてきました。

 すぐ上を見るも声の主の姿はありません。

 2階の窓が開いています。恐らくあそこから聞こえた声だったのでしょう。


 ドタドタドタドタッッッ!!!!!!


 お次はお家の中から勢いよく階段を駆け降りてくる音が聞こえてきます。


「もぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおお!!!!!!!」


 ガララッ!


 リビングから庭に出られるガラス戸が開け放たれました。


「ひどいよみんなして! なぎ仲間ハズレであそんで! なぜかうちの庭で!!!!」

「やべ」

「あわわ」


 言うまでもありませんが、降りてきたのは渚帆さんでした。




「なぎ寝てるのに起こさずコソコソあそんでたんだね。仲間ハズレで」


 渚帆さんは頬を膨らまし、おろした両手を握りしめた状態で、今にも泣き出しそうです。

 誕生日にこれはまずい。


 寝起きのお顔とはだけたパジャマ姿といつも頭の上でお団子に纏められているくせ毛の髪が爆発して狂喜乱舞するくらいに可愛いのですが今は気持ちを抑えましょう。


「わざわざちっちゃい子用のぷーるまでよういして……」

「えっと……」

「これはですね……」


 私と椛さんは言いながら目を合わせました。

 刹那、私達はテレパシーで通じ合ってコクンと頷き合います。






「「お」」

「……ぉ?」






「お誕生日おめでとー!!!!!!」

「お誕生日おめでとうございます!!!!!!」


 パンッ!


 私達はご近所中に響き渡るような声を出し渚帆さんのお誕生日をお祝いします。

 同時にお母様がどこから取り出したのかクラッカーを鳴らしました。




「え? え? どゆこと? え? そゆこと?」


 渚帆さんは右に左に顔をフリフリと戸惑ったお顔からだんだん笑顔になっていきます。


「はいこれスイカね。16歳のお誕生日おめでとう。なぎ」


 お母様がこれまたどこから出したのか大きなスイカを渚帆さんに手渡します。


「もー! びっくりさせないでよー! もー!!!!」


 ほ。

 なんとか誤解も解けたみたいで一安心ですね。

 私と椛さんはもう一度顔を合わせてお互いに安堵しました。


 そして、再び渚帆さんを見ると——






「みんなありがとぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!! だいすきぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!」


 スイカを持って突っ込んできていました。

 あ。


 ンバッッシャーン!!!!!!


 子供用プールに嵌る3人と1玉。






 ……スイカは冷やした方が美味しいですからね。


 おもち








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