夏休みお餅

15話① はじまりの朝

 7月27日(水)

 今日は夏休み初日です。ちなみにスイカの日らしいです。


 が! そんなことは些細なこと。

 今日は……渚帆さんのです! 私より1個年上の16歳になられました! お姉ちゃん!






「遂にきましたね。INTが」

「そうだな」


 INT

 それは私と椛さんだけが扱える言葉。






 INT=入初渚帆誕生祭いりそめなぎほたんじょうさいです!






「じゃ、ピンポン押すぞ」

「は、はい!」


 時刻は午前10時。

 私達は渚帆さんには内緒で、朝から渚帆さんのお家に来ています。


 この前もお邪魔したのですが、今回は前より緊張しています……

 だって今日は——




「はーい! 今開けますよー!」


 ガチャ。

 元気なお声と共に玄関からお1人の女性が出てこられました。


「おはよう椛ちゃん。お久しぶりね?」

「おはようございます。おば——」

「違うでしょう?」

「……お久しぶりですねさん」


 帆波ほなみさん。

 そう呼ばれた目の前の女性は渚帆さんのお母様です。


 お会いするのは今日が初めてなのですが一目見てすぐにわかりました。

 ぱっと見の印象が渚帆さんにそっくりだったからです。


 ウェーブのかかった可愛らしい癖毛の長い髪。

 渚帆さんのような人懐っこいお人柄が全身から滲み出ていらっしゃいますしスタイルも良いです。とてもお子さんが3人居るようには見えませんね……

 身長だけは私と同じくらいで、そこだけは親近感を覚えます。




「あなたが小春子ちゃんね? なぎからお話をいつも聞いているわ。初めまして、なぎの母の帆波です」


 お母様が私に向き直り、丁寧に頭を下げました。

 私は慌ててそれに倣い頭を下げます。


「は、初めまして。娘さんと、ご、ご交際? させて頂いております筑紫恋小春子と申します! 本日はご多忙中のところお招き頂きありがとうございます!」

「えぇ……」


 横から呆れ声が聞こえます。


「ふふっ。なぎに聞いていた通り、とっても綺麗でお上品な女の子ね」

「え! その、きょ、恐縮です……」


 私は顔の温度が急激に上がるのを感じました。ぷしゅー

 うぅ〜!! 緊張してやらかしてしまったかもしれません。

 昨夜あんなに、娘さんを貰いに行く時マニュアルを読んでいたのに!


「とりあえず上がったら? 外、暑かったでしょう?」

「お邪魔します」

「お邪魔します……」






 お母様に連れられリビングに通された私達。

 テーブルの前のソファに椛さんと並んで座っています。


「麦茶で良かったかしら?」

「はい。ありがとうございます。頂きます。……後これをに入れておいて頂けますか?」


 私は袋に入れてきた大量の例のブツをお母様に手渡します。


「あら? こんなに沢山……どうするのかしら?」


 お母様は袋の中身を見つめて不思議そうに訪ねます。


「えーと、実験というかなんというかですね…………あ!! かき氷器ってございますか?」


 私は、しまった! と思いながらお母様に聞きました。

 すっかり大事な事を確認し忘れていました……


「あるにはあるけど……あ! 私なんとなくわかっちゃったかも!」


 お母様は気づいた途端とても無邪気な笑顔になりました。

 ママ……可愛い……。




「ママ……可愛い……」

「声に出てるぞ」

「んあ!」


 危ない危ない。綺麗でお上品なイメージを守らなくては。

 私は1度、頂いた麦茶を1口飲み自分を落ち着かせます。

 ……え! あまっ!




「……お母様。渚帆さんってまだ起きてきませんよね?」


 私はごまかすようにお母様に訪ねます。

 出来ればサプライズでびっくりさせたいので、準備が出来るまで寝てて頂けると有り難いのですが。


「それは大丈夫だと思うわ。昨日夜遅くまでお姉ちゃん2人とゲームをして遊んでいたみたいだから」

「お姉様方は今日はもういらっしゃらないのですか?」

「ごめんなさいね。朝から2人共外に出て行ってしまったわ」


 この前もですが中々お姉様方にお会いできませんね。

 いつか入初シスターズが揃ったところを見られるでしょうか?




「おば——」

「帆波」

「帆波さん。これも冷やしといて貰えますか? こっちは冷蔵庫で大丈夫なので」


 椛さんは立ち上がり、ソファ脇に置いていた夏の丸い風物詩をお母様に渡しました。


「わかったわ。冷蔵庫に入れて置くわ……それにしてもさっきからわざとなのかしら椛ちゃん?」


 お母様はジト目で椛さんを見ています。

 こっちにも目線ください!


「……呼び方なんて大した問題じゃ——」

「問題大ありよ。帆波さん……もしくは帆波ちゃんでもいいのよ」


 帆波ちゃーん!


「いやいや、ちゃんづけは流石に……ねぇ?」

「あら? 何が、ねぇ? なのかしら? 女の子にちゃんづけはおかしなことではないでしょう?」


 お母様は椛さんに近づきながら問い詰めていきます。


「だって、あたしらの3倍くらいの年齢ですし……」

「3倍もない!!!」


 更にお母様は椛さんに近づいて……もはや壁に追い詰めています。


 それにしてもお母様と椛さんは仲がとても良いですね。

 それもそうですか。渚帆さんと知り合ってからの間柄と考えると、5.6年くらいの付き合いになるわけですし当たり前でしょうか。






「小春子ちゃんもお母様じゃなくて帆波ちゃんって呼んでくれて——」


 お母様は微笑みながら私の方に向き、首を傾げました。


「あら? 小春子ちゃん。どうしたの? そんな可愛い顔して?」


 その言葉を聞いた椛さんが勢いよく私の顔を見てきました。


「なんだ小春子。くくっ。あたしと帆波さん見てヤキモチ焼いてたのか?」


 椛さんはとても嬉しそうに解説しています。

 んなっ!!!!!!!!


「ち、違います! 違います! そんなんじゃありませんって!!!」

「えー? でもぷくーっとしてただろ。いつもみたいに」

「してません! してません! いつもだってしてません! お母様の前で変なこと言わないでください!!!」


 私はソファから立ち上がり椛さんに詰め寄っていきます。


「あらあら? いつもあんな可愛らしい顔をなぎにも見せているのかしら? 詳しくそのお話聞きたいわね?」






 お母様は私と椛さんをソファに座り直させ、私の横に座りました。

 は! 逃げられない!


「この前なんかですね?」

「ふむふむ」

「もー! だから変なこと言わないでくださいー!」











「…………むにゃむにゃ……なたでここ……」


 おもち











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