13話 夏の匂い
全世界待望の夏休みまで数日に迫った今日この頃。
夏らしい気温と日差しで元気な外から逃げ出し、私達3人はホームグラウンドであるAE◯Nのフードコートに来ています。
もうお店に入ってから、目を瞑ってもフードコートに辿り着けるような気さえしています。
「もう外あちーな7月も終わり頃となると」
「そうですね。こうも暑いと帰ったらすぐシャワーを浴びたいです」
「たいくもあったし汗が気になるしね〜」
椛さんは髪が短いですし、渚帆さんは長いのですが、いつも髪を上に纏めてのお団子頭なので涼しそうです。美味しそうです。
私は常時下ろしているので暑いんですよね……首の後ろ辺りなんかは特に。
「ふー。本当に暑いですね」
私は後ろ髪を左手で持ち上げて右手で軽く扇ぎました。
「小春子は長いし量も多いし暑そうだよな。たまには結んだりしないのか?」
「お風呂に入る時などは結んだりしますが……その他ではあんまり結ばないですね」
「えー。結んでもかわいいいと思うんだけどなー。きれーな黒髪ロングだしね」
『結んでもかわいいと思うんだけどなー。きれーな黒髪ロングだしね』
私今口説かれましたよね? というか告られた?
やれやれ。困りましたね……
「謹んでお受けいたします」
「なに言ってんだお前は」
「あれ? 結んでもいいってこと?」
渚帆さんは、むぅ?っと一度、小首を傾げて、右隣に座る私の方に身体ごと向きました。
「こはるこちゃんもあっち向いてー。なぎが結んだげる」
「で、でも渚帆さんのお手を煩わせるわけに——」
「じゃあ、あたしが結——」
「渚帆さんでお願いします」
渚帆さんは私の後ろ髪に手を触れました。
「んっ」
「わ! 痛かった!? ごめんね!」
「い、いえ! 大丈夫です!」
人に髪を触られるという事も普段ないので、少しくすぐったく感じてしまいました。美容院とはまた違いますし。
渚帆さんに触られていると思うと恥ずかしさもありますし尚更です。
「んっ」
「真似しないで下さい椛さん!!」
全く! 椛さんの頭も弄り回して悶えさせてあげますからね!
「くんくん。これはラベンダーかな? こはるこちゃんいい匂いするー!」
「あ、あの/// 嗅いだりするのはちょっと///」
渚帆さんは私の首筋に鼻を近づけて……うなじの匂いを嗅いでいます。
あ! あ! あ! よりによって体育のあった今日に限って!
本当にいい匂いしてますか!? 気を使ってないですか!?
ボディーソープがちゃんと仕事をしているといいのですが……
私は最近、北海道の富良野地方で有名な、ラベンダーのボディソープを使っています。
ちなみにラベンダーの見頃は7月中旬から下旬にかけてと短いので、観光は計画的に!
「よいしょっと」
私が渚帆さんに匂いを嗅がれてフリーズしていると、椛さんが椅子ごと私の前まで移動してきました。
「な、なんですか? わざわざ移動してきて」
「いや? なんか面白そうだから近くで見たくて」
「ふんふーん♪ じゃあ、もみじちゃんにはこはるこちゃんが逃げないように見ててもらおうかなー」
渚帆さんは鼻歌混じりに言いました。
「別に逃げたりしませんけどね!」
「はーい。こはるこちゃん頭動かさないでねー」
「……小学生の頃とかはあたしがなぎの髪結んでやってたの思い出すな」
椛さんは私達を見つめ懐かしむような声音でポツリと言葉をこぼしました。
「またお得意の幼馴染マウントですか!」
「もー。頭動かさないよー」
「ちげーよ。ただ思い出しただけだよ」
はぁ。と椛さんは溜め息をつきました。
ぐぬぬぬ。その余裕。幼馴染どころか彼氏面していますね!(被害妄想)
なんとかその余裕に満ちた表情を一変させてやりたいですね……
あ! いいこと思いつきましたよ!
「椛さん後ろを向いてください」
「
「私が椛さんの髪を結んであげます」
渋々といった様子で椛さんは後ろを向きました。
ふふふふ。そのクールな顔を羞恥で染め上げてご覧に入れましょう。
「へへへー! こーやってるとみんなでお風呂で背中を洗いっこしてるみたいだねー」
「そうですね! ……髪が短いのでなかなか難しいですね」
私は渚帆さんのみんなでお風呂という単語に一瞬思考を奪われそうになりながらも椛さんの髪を弄り始めました。
「んっ」
「あれあれ? 今の可愛らしいお声はどこからでしょう?」
椛さんは慌てて両手で口元を押さえました。
そこで私はすかさず追い討ちをかけます。
「すんすん……椛さん。いい匂い。しますね」
私は椛さんの首筋に鼻を近づけて匂いを嗅ぎ、更に耳元に口を近づけて囁きました。
「んんっ///」
ちょっと楽しくなってきました(興奮)
私は畳み掛けるように頭皮をマッサージし始めました。
「気持ちいですか? 椛さん」
どうですか! 餅屋直伝の頭皮マッサージは!
椛さんは肩を小さく震わせ口元を押さえています。
これでトドメです。
「ふぅ〜」
私は頭から手を離し両手を椛さんの両肩に置き、耳に顔を近づけてから優しく息を吹きかけました。
椛さんはビクッと肩を震わせます。
こんなところですかね? 私は一仕事終えました。
椛さんはゆっくりとこちらに振り返りました。
見ると顔は、オンコの実のように耳まで真っ赤に染まり、目元には涙が溜まっています。
あ、あれ? 私は額に冷や汗が流れます。
「へんたい」
椛さんはそれだけ呟くと席を立ち何処かに走り去っていきました。
…………私は、そういえば渚帆さんに髪を結ばれていたと思い出し、ゆっくりと後ろを振り返ります。
そこには同じく顔を真っ赤にした渚帆さんの姿が。
「あはは…………す……すごいね?」
おもち
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