11話② 朝ちゅん

 チャラ男 『ここをキャンプ地とする!』




 映画を観始めてまだ10分少々。

 大学生の男女5人が、北海道の知床しれとこにある薄暗い山に、心霊写真を撮りに来ています。


 私はポップコーンぱりぱり、サーターアンダギーもくもく、魔女の指クッキーぽりぽり。渚帆さんのベッドの上にあったスイカ型のクッションを抱きながら映画を見ています。

 その横には、渚帆さんと渚帆さん枕に挟まれた形で座っている椛さんが座っています。




 ヒロ子 『ここで本当に合っているの?』

 イケ男 『ああ。この山が例の心霊スポットだ』

 ギャル男 『正直来たわいいけど霊なんているのか信じられねーわ俺は』

 ギャル子 『あーしはギャル男君が行くっていうから来ただけだし』

 チャラ男 『あれ? 俺は無視?』



 

「ふっ。なんだやっぱり全然怖くねーじゃん」

「そだねー。なぎも初めてみてるんだけど怖くないや」

「まだ山に来ただけですからね」




 ギャル男 『俺あっち見てこよーっと』

 イケ男 『あ! おい! まずテント建ててから——』

 ギャル子 『あーん。あーしも行くぅ〜』

 チャラ男 『けっ! 俺らだけで建てちまおうぜ』

 ヒロ子 『はぁ。そうしましょうか』




 陽がもう落ちかけている山の中、ギャルカップルは山の中へ、残された3人はテントを建て始めました。


 ちらりと横を見ると、渚帆さんが股の間に座っている椛さんに、魔女の指クッキーを食べさせようとしていました。


「ほれほれ〜。おいしいよ! 指!」

「ちょっ! 気持ち悪いから近づけんな!」

「もー。こんなにおいしーのにー」 もぐりもぐもぐ

「やっぱ映画にはポップコーンだよな——小春子よ」


 椛さんはポップコーンを1つ摘み、一度私に見せてきました。

 そしてそのまま摘んだポップコーンを——


「ほれ。こっちの方が美味いぞ」

「あーん♡ おいしい! さすがなぎ!」


 これが世に言う映画を出汁にしてイチャつくカップルなのでしょうか。

 いいえ! 椛さんと渚帆さんはカップルではないので断じて違いますよ! テキトーなこと言わないでください! (自問自答)






『ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!』


「わ!」

「にゃっ!」

「きゃっ!」


 画面から叫び声が聞こえました。

 私の横からは猫の鳴き声がしたような?


 イケ男 『今のギャル男の声だぞ!』

 チャラ男 『向こうの方からだな!』

 ヒロ子 『うん!』


 3人はギャル男の声のした方向、更に山の奥地へと進んでいきます。

 陽は完全に落ち街灯もないので、持ってきた懐中電灯で照らさなければ辺りは真っ暗です。


 真っ暗闇で懐中電灯を空に向けるの楽しいですよね。


 チャラ男 『うひゃ〜。ほんとに真っ暗だなここ』

 イケ男 『……おい! あそこ!』

 ヒロ子 『え?』


 イケ男が照らし出した先には——






「きゃぁぁぁぁぁああああああああああ!!!!!」

『きゃぁぁぁぁぁああああああああああ!!!!!』


 2方向から叫び声が聞こえてきました。


 画面では驚きのあまりイケ男に抱きつくヒロ子の姿が…………私の横では同じように渚帆さんに抱きついて叫び声を上げる椛さんの姿が。

 ポップコーンをバリバリ。私のお菓子を食べるペースも上がります。


 イケ男 『そ、そんな』

 チャラ男 『う、嘘だろ?』

 ヒロ子 『うぅ……』


 意気揚々と山に入って行ったギャル男の面影はもうなく、そこには血みどろになった死体が転がっていました。


 イケ男 『……ここで何があったんだ?……ん? なんだこの複数の刃物で抉られたような傷は』

 チャラ男 『おい! 早く警察にでも——あれ? そういえばギャル子ちゃんは!?』

 ヒロ子 『は! ギャル子ちゃぁぁぁぁぁあああああん!!! 居るなら返事してぇぇぇぇぇぇぇええええ!!!』


 ヒロ子の叫び虚しく、返ってくるのは鳥の鳴き声や木々のざわめきだけです。


 イケ男 『一度テントを建てたとこに戻った方がいい』

 チャラ男 『あぁ! そうだな』

 ヒロ子 『そうしましょう!』


 来た道を早歩きで戻っていく3人。

 もうすぐ先程のキャンプ地というところで、イケ男が足を止めます。


 チャラ男 『おい! どうしたイケ男! 早く戻らねーと』

 ヒロ子 『そうよ! イケ男君! もしかしたらギャル子ちゃん戻ってきてるかもしれないし』

 イケ男 『いや! 向こうをよく見てくれ!』


 イケ男が指差した先は、テントを建てた場所より更に奥。2人もその場所を目で追うと——

 ボワッと何か火のようなものが揺らめき、やがてスゥッーと奥に消え入ってしまいました。


 チャラ男 『お、おい今のって……』

 ヒロ子 『ま、まさか……』






「人魂だぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!!」


 画面よりも先に横から絶叫というなのセリフが私の耳に飛び込んできました。


「祟りじゃぁー祟りじゃぁー山の神がお怒りじゃぁー」

「まだメインが出てきてないのにこれでは……」

「もぉー。もみじちゃん! 服のびちゃうよー」


 椛さんは後ろで椅子になっている渚帆さんに再び抱きつきながら、服を引っ張っていました。


 あれやこれやと映画は進み、ギャル子は殺され、なんだかんだチャラ男は行方不明になり、イケ男とヒロ子2人で山を散策し、遂に映画のメインであるふぁいやーべあこと火熊ひぐまが出てくるかというところ私は——




(あれ? 意外と怖いかもしれません……)


 私はふぁいやーべあが出てきそうで出てこないという展開にまんまとハマって見入ってしまい、気付けば映画の驚かせ表現に踊らされていました。


「きゃっ!」

「ぬぉっ!」


 茂みの奥から真っ赤な目が光りこちらを覗いています。


「な、なんだ小春子? 今更怖くなってききききき、きたか?」

「べ、別に怖くないです。びっくりしただけです」


 相変わらず、渚帆さんと渚帆さんの枕に挟まれて完全防御の椛さんがブルブル震えながら私に問いかけます。


 ちなみに渚帆さんは、随分前から椛さんを抱きしめたまま寝息を立てています。来世は渚帆さんの抱き枕になるのも悪くないですね。




「ひゃっ! うぅ……」


 私がまた小さく悲鳴をあげると椛さんがこちらを黙って見つめていました。


「笑いたければ笑っていいんですよ」

「はぁ。ちげーよ。ほら」


 椛さんは左手に枕を抱いたまま、もう片方の手を私に差し出します。


「なんですか? 私は別に怖がってないですけど椛さんは遂に渚帆さんと渚帆さんの枕だけじゃ足りなくなりましたか?」

「あーうん。それでいいから、手」




 私は不本意ですが、左手を椛さんの右手に重ねました。不本意ですが。

 ……温かいです。


「これで怖くなくなったかなお嬢様?」

「だから! 私は別に最初から怖くなど——」


 文句を言おうと椛さんの方を向こうとした瞬間——






『ヴォォォォォオオオオオオオオ!!!!!!』


 画面いっぱいに燃え盛る火熊ヒグマ。ふぁいやーべあが猛々しい唸り声をあげてイケ男とヒロ子に襲い掛かろうとしていました。




「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!!!!!」


 私と椛さんはお互いの手を強く握りあっていました。






「んー! よくねたよー! あれ? 映画終わっちゃってる」


 渚帆が起きると映画はもう終わり、時刻は21時頃。

 渚帆の家族はもう帰宅しています。




「あ。2人とも仲が良いですなぁー!」


 床を見ると小春子と椛が手を繋いだままうなされながら寝ていました。


「このまま運んでベッドに寝かせといてあげよう。なぎえらい」


 渚帆は2人をベッドに優しく寝かせ、掛け布団をかけてあげました。


「おなかすいたから下行こー。お2人はごゆっくりー」






 翌朝、2人の大絶叫がこの家に響き渡りました。


 おもち。











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