11話① ベッドの下は基本
「スゥッーーーーーーーーーー…………」
「息は吸ったら吐くんだぞ?」
ハァーーーーーー……。衝撃のあまり息の仕方を忘れてしまっていました。でもそれは仕方がないのです。
私と椛さんはあの後、ぷりぷり怒って拗ねてしまった渚帆さんに連れられて、渚帆さんの部屋に来ています。
「仕方ないでしょう。椛さんは吸わなくて大丈夫ですか?」
「お前と一緒にするなよ」
呼吸を整えた私は、改めて渚帆さんの部屋を見渡します。
ベッドに机にクローゼットに……と珍しい家具は特にないように見えますが、どれも私の部屋にはないような可愛らしいモノばかりです。
AE○Nからそう遠くはない場所にある入初家。
外から見てもご立派な一軒家で、渚帆さんのお部屋は2階にありました。
お家には普段、ご両親となぎさん、それに渚帆さんの上にまだお会いしたことはありませんが、お2人のお姉様がいらっしゃいます。
今日は皆様ご不在ですが、ご挨拶しないといけませんね。私もお姉様の実質妹みたいなもんですし。
「私達はお菓子作り手伝わなくても本当にいいのでしょうか?」
「いいよいいよ。あたし達じゃ邪魔するだけだし」
渚帆さんは今、1階のキッチンでお菓子作りに奮闘しています。
なんでも、私に食べさせるために沢山作るつもりみたいで、とても気合を入れてらっしゃいました。
「とりあえずそこ座って待ってようぜ」
「そうしましょうか」
私達はベッドの横に背中を預けてカーペットに座りました。
「椛さんは何度か来たことあるんでしたよね?」
「数えきれないくらいあるぞ」
「む」
渚帆さんと椛さんは幼馴染ですから当たり前なのですが、悔しいですね。
椛さんにマウントを取るにはここに住むしか……
「それにしても……渚帆さんめちゃくちゃ怒ってらっしゃいましたね」
「まぁなー。今ままでの自分が否定されていたのかと思って、寂しさと不安で爆発しちゃった感じだな……」
「私は贖罪のつもりでどんなカロリーでも受け入れるつもりですが、椛さんはどうされますか?」
「あたしもそりゃ受け入れるけど……うーん」
これから行われるのはホラー映画お菓子パーティ。
お菓子は私が。ホラー映画は椛さんが受ける罰です。
「椛さんホラー系苦手だったんですね。意外で可愛らしいです」
「う、うるさいな。昔から虫とかバケモノは大丈夫なんだけど、おばけとかそういうのはダメなんだよ」
「どうしてですか?」
「虫とかバケモノは最悪物理で倒せるけど、お化けは倒せないし」
「椛さんらしいですね。私はその中だと虫が一番ダメかもです」
それから、渚帆さんがお部屋に戻って来るまで、2時間くらいでしょうか?
私は常識的な範囲内でお部屋の探索をしていました。あくまで常識的な範囲内で! です。ベッドの下を覗いたりとその程度です。
あ。ベッドの上も調査対象ですね。くんくん……これは枕。
「おまたせー! それじゃあ——ん? こはるこちゃんなにしてるの?」
ガチャ。お部屋の主が大量のお菓子をお盆に載せ、お部屋に戻ってきました。
「……少々ベッドメイキングを」
「ふーん? はいこれお菓子たちねー!」
渚帆さんは、私達が座っている前にある丸いテーブルに、3種類のお菓子を置きました。
1つは先程フードコートでも広げていた魔女の指クッキー。
2つ目はキャラメルソースが大量にかかったポップコーン。
3つ目は……これは沖縄のお菓子のサーターアンダギーでしょうか? 丸いドーナツみたいなモノですね。
「ふっふっふっふっふ。こはるこちゃん存分に食らうがよい」
「はい。謹んでお受けいたします」
「なぎも食べるけどね! えーと、もみじちゃん用のホラー映画はーっと」
渚帆さんは、テレビ下のローボードを四つん這いで漁り始めました。
……左右にふりふり振られるお尻は、まるでトンボを誘惑する指のようです。私はトンボではないので、お尻に止まることは決してありませんが。
「どこ見てるかなぎに教えてやろうか?」
「私はトンボではないのでそんなことにはなりません」
「は?」
「あったあった!」
私が人とトンボの狭間で揺れている間に、渚帆さんはお目当てのブルーレイを見つけたようです。
「今回もみじちゃんに観てもらう映画はこれです!」
渚帆さんはばーんと私達にブルーレイのパッケージを突きつけます。
「……どうだ小春子? どんな感じだ?」
「え?」
横を見ると椛さんが両手で顔を覆って下を向いていました。
「観る前からそんな調子でどうするんですか」
「いいから早く伝えろ! なるべくあたしが怖くないように」
「お姉ちゃんに前にもらったんだーこれ」
私は渚帆さんからブルーレイを受け取り、改めてパッケージを確認しました。
タイトルは『ふぁいやーべあ』
中央に燃える熊、その姿に慄く男女6人が映っているパッケージデザインです。そこまで怖い感じではなさそうです。
「椛さん見てください。全然怖くなさそうですよ?」
「騙されない」
「ほんとですって。プーさんみたいなもんです」
椛さんは顔を上げて、指の隙間からこちらを伺います。
「人魂だ! ほら! 怖いやつ!」
「よく見てください。燃えてるのは熊です」
「そうだよ! くまさんだよ!」
再び指の隙間からこちらを伺う椛さん。
どんだけ嫌いなんですか、ホラー映画。
「あれ? なんだただの燃えてる熊じゃん。これなら怖くないわ。最悪倒せるし」
「基準がイマイチわかりませんがようやく観始められそうですね」
「よーし! 再生するよー!」
渚帆さんはブルーレイプレーヤーの再生ボタンを押しま——
「なぎ。枕かせ。そしてそこ座って」
「え? いいけど」
「?」
椛さんはベッドから可愛らしいフリフリのついたピンク色の枕を取り胸に抱くと、そのまま座る渚帆さんの股の間にすっぽり収まりました。
「よし! これで前も後ろも完璧だ。再生してくれたまえ」
「もー。もみじちゃんこれじゃばつになんないよー?」
「??」
へ? 胸の前に枕、背中に渚帆さんて……ほぼ渚帆さん2人に挟まれているに等しいじゃないですか! ずるい! なんてずる賢い子! そんなサンドウィッチありですか!?
「ホラー映画お菓子パーティすたーと! もみじちゃんは映画ちゃんとみて、こはるこちゃんはお菓子たくさんたべてね」
チラッ。こちらを横目で一瞥した椛さんの顔には羨ましかろう? と描いていました。
ぐぬぬぬ。
私はキャラメルポップコーンを手で掴んで口に放り込みました。
おもち
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