7話 カー◯ィ吸い込みよー
「吸いたい」
衰退? いえ。吸いたい? と聞こえた様な……渚帆さんのお口から。
このフードコートで吸えるものといえばマクドナル道のシェイクくらいしかありませんが……それか私のでよければ口でも首でもちく——
「もうそんな時期か。前回から早いな」
「ごめんもみじちゃん。もうがまん……できないかも」
え? え? なんですか?
「え? 吸うってナニを吸うんですか?」
「こはるこちゃん。なぎ時々たまらなくなるんだ」
「そうか……小春子は知らなかったな」
ちょっと待ってください。これ。シェイクを吸うとかそんな話の雰囲気じゃないですよ?
私は手に持っていたストロベリーシェイクを一口吸いました。
「なぎ。アレルギーで、不定期的に無性に吸いたくなっちゃうの」
「ほら。こいよなぎ」
「うん」
私の横に座っていた渚帆さんはゆっくり立ち上がると、向かいに座っていた椛さんの方に近づいていきます。
椛さんは近づいてくる渚帆さんを、座ったまま見上げると、おもむろに両手を広げました。
「え? これいいんですか? 公共の電波に乗せても大丈夫なやつですか?」
渚帆さんは椛さんの目の前で一度立ち止まると、頬を赤らめ下唇を噛みました。
椛さんはとても優しい目をして静かに待っています。
そして、渚帆さんは目を瞑ると椛さんの方に——
「ちょっと待ってください!」
私は思わず大きな声を出していました。
渚帆さんは私の方に振り返り、静かに口を開きました。
そのお顔はいつになく真剣で、どこか怖いくらいでした。
「どうしたの? こはるこちゃん……こはるこちゃんが代わりになるの?」
「ひっ! ひゃい!」
私は渚帆さんの迫力に気圧され、わけもわからず肯定してしまいました。
ああ。私はこれからナニをされてしまうんでしょうか……ニットベストは脱いだ方がいいのでしょうか?
「覚悟があるなら、もうなぎは止めないよ。じゃあ、目瞑って」
「はい」
ゴクッ。
私は唾を一度飲み込み、目を瞑りました。
両の手は自然とスカートを握りしめています。
「いくよ。こはるこちゃん」
コクッ。
私は目をギュッと瞑り直して頷きました。
お母様お父様。
「もみじちゃん! こはるこちゃんに例のモノ付けて!」
「あい」
例のモノ?
かぽ。
私の頭に恐らく椛さんが、何かはめました。
「かんぺきっ!!! そいじゃ、いただきます!」
「おあがりよ!」
よくわからない掛け声に私は目を開けると、文字通り渚帆さんが、私目がけて飛び込んできていました。
「スゥッーーーーーーーーーーーー」
「はわわわわわわわ」
渚帆さんは私の腰に手を回し、お腹に顔を擦り付けながら思いっきり深呼吸しています。
え? え? 私ナニされているんですか?
「あのー。椛さんこれは私ナニされてるんでしょうか?」
「フゥッーーーーーーーーー。スゥッーーーーーーーーーー」
「ナニってそりゃあ」
椛さんは私の真後ろに立っており、真上から私を覗き込むように言いました。
「猫吸い」
猫吸い。
猫を飼っている飼い主さんが、猫のお腹に顔をうずめて、息を吸う行為。
飼い主さんは猫吸いにより、猫の温かな体温や、ふわふわの毛並み、干したての布団やミルクのような匂いが感じられるそうです。
「こはるこちゃぁ〜ん。いい匂いがするよぉ〜」すんすん
「ありがとうございます!! ……ではなくて、どういうことですかこの状況は」
「さっきなぎが説明してただろ。アレルギーだって」
🐈 🐈 🐈
「なるほど……そういうことでしたか」
「ごめんね。こはるこちゃん」
まとめるとこうでした。
渚帆さんは昔から猫アレルギーで猫に触れられない。
ですが、猫は大好きなのでたまに好きが溢れてしまい、本来猫にするはずの猫吸いを椛さんに不定期的にして発散していたと……
羨まけしからん。私は自分の頭に付いていた猫耳を取り握りしめていました。
「昔っからたまに相手してやってんだけど、これからはその負担2人で分けられそうだな」
当たり前のように猫耳を自分のカバンから出していたことに突っ込んだ方がいいですか?
「びっくりしたし嫌だったよね? もうしな——」
「大丈夫です。私実は猫なので。にゃー」
くっ。至近距離からのうるうる上目遣いは反則です。
私今日で人間を卒業します。
「にゃにゃーにゃ」
「え!? これからもたまに吸っていいの?」
「にゃっ!」
私はにゃ本語で渚帆さんと会話をしています。
恥ずかしくない。恥ずかしくない。恥ずかしくない。
「にゃーにゃにゃっにゃ」
「え!? 首の裏も吸っていいの?」
「にゃ!? にゃにゃはにゃにゃ」
首の裏!? そげなマニアックな箇所は——
「あたしはいいぞ」
椛さんはいつの間にか席に戻って座っており、腕を組んでこちらを見ています。茶トラの猫耳を付けて。
ちなみに私はロシアンブルーです。
「あたしは猫暦7年目でもう慣れているからな」
「わー! でた! 茶トラさん!」
渚帆さんは私の元を離れて、椛さんの方に向かってしまいました。
慣れている……ねぇ。椛さん。耳が赤いですよ?
人間の方の。
「渚帆さん! こっちにも猫はいますよ! にゃー!」
私は再び猫耳を装備して渚帆さんの気を引きます。
「こっちだなぎ! にゃ、にゃー」
椛さんも負けじと猫アピールをしています。
「す、すごい! 猫カフェみたい! なぎ、猫カフェって行ってみたかったんだ!」
渚帆さんは私と椛さんどちらの方に行こうかと、頭のお団子ゆらゆら右往左往しています。
フードコートのテーブル席に猫耳女子高生2人と猫耳女子高生に興奮する女子高生1人という構図は長く続けていても大丈夫でしょうかね?
「おー!!! なぎすんごいコト思いついちゃったよ!!」
渚帆さんは右往左往ゆらゆら揺れていたのですが、突然ピタッと止まり、両手を胸の前で組み、祈るような格好で目を輝かせながら言いました。
「文化祭のクラスのだしものは猫カフェにしよう! 猫好きはもちろん、なぎみたいなアレルギーの人も楽しめるすばらしいあいでぃあ——」
「「それはにゃめ(だ)(です)!!」」
おもち
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