3話② お値段以上NTR ♪

「いっぱい泣いて……いっぱい食べて……眠くなってきちゃったよ……でもおべんきょうしないとぉ…………すぴぃ」

「おい! 寝るな! もたれかかるな! 重いってのっ! どんだけ体格差あると思ってんだ!」

「さて。どこか空いている席は——」


 AE○Nのフードコートにあるラーメン屋さんを後にした私達は、テスト勉強をするべく席を探しています。教科書等は私か椛さんのを使えば大丈夫でしょう。


 いつもは2席2席に分かれた4人掛けテーブルに座る事が多いのですが、今日は3人横並びに座れる長いテーブルに座りたいですね。


「あそこが空いていますね。座りましょうか」

「お前、自分で歩けよなぎぃぃぃぃ。重いってぇぇぇぇ」


 ズリズリズズズッと、両脇を椛さんに抱えられて引きられる渚帆さん。

 20cm以上の身長差があるので見ていて面白い絵です。


「さあ、渚帆さんは真ん中の席に座ってください」

「う、うん?」

「じゃあ、あたしは左を」

「私は右を」


 ながーーいテーブルに椅子が何脚もあります。

 渚帆さんを真ん中に私と椛さんで挟み込むように座ります。


 私は渚帆さんに勉強を教える為に椅子をずらして密着します。逃げられてしまうかもですし、くっついた方が教えやすいですからね。

 これは仕方なく仕方なく……あっ。なまらいいかほり


「すんすん。では英語から始めましょうか」

「あっ。いや、うんと……」

「どうしました?」


 まさか匂いを嗅いでいたのがバレましたか? すんすん


「すん、数学からの方が良かったですか?」

「えっと、そうでもなくって……」

「もしかして遠慮しているんですか? 大丈夫ですよ。学校でも

 お教えしていましたが、人に教えることは復習になるので、私の勉強が疎かになることはありませんよ」


 優しい。

 先ほど食べていた札幌味噌ラーメンのバターの甘味くらい優しい。

 ちなみにここ、釧路のラーメンは醤油ベースのあっさりとした味わいに、細いちぢれ麺が多いですね。いつかお酒を飲んだ後の締めでも食べてみたいです。


「うーんと。じゃあ、英語を教えてほしいかな……」

「英語ですか? 単語と文法を覚えて後はひたすら長文を解いてください」

「……」

「どうしました? ほぼ暗記するだけですよ?」


 あれ。渚帆さんが市販の焼く前の餅のように固くなっています。私なにか変なことを言ったでしょうか……


「えーと……じゃあこの数学の問題は……」

「3+2√2+2√3+2√6です」

「と、とちゅう式とかは……」

「途中式? 必要ですか? その問題に」

「必要だわ!!」


 わっ! びっくりしました。居たんですね椛さん。

 全く。2人の世界に割り込まないで欲しいです。


「まったく。学校でも思ってたけど、小春子は人に教えるのが壊滅的だ」

「そ、そんなことは……ないですよね? 渚帆さん」

「……」


 ギギギッとロボットの様に渚帆さんの居る左に顔を動かします。そこには、下を向いたまま押し黙る渚帆さんの姿。


「渚帆さん。こっちを向いてください……」

「…………一旦もみじちゃんに教わってみようかな。ちがうんだよ!? 多分、なぎがおばかなのが悪いの! こはるこちゃんは悪くないよ!」

「やれやれ。仕方ないなー、あたし勉強は平均くらいだけど、なぎの勉強相手くらいはできっかな」

「あっ」


 渚帆さんが、申し訳なさそうに私から椛さんの方に椅子ごとずれて離れてしまいました。

 すんすん。残り香が……



「——だから、ここにこれを代入して……そうそう」

「うんと、これをこっちにだいにゅうして、次はこの数字を……」

「いやいや。それはこっちに掛けて……もっとこっち寄れなぎ」ぎゅっ


 なんでしょうかあれは。この世界に私はもう居ないんでしょうか。

 そして、なぜ椛さんは渚帆さんの肩に腕を回して、身体を引き寄せて密着しているんでしょうか。


「もう。そんなにくっついたら髪がほっぺに当たってくすぐったいよぉ」

「近づいた方が教えやすいからな仕方ない……」ちらっ

「!?!?」


 渚帆さんの肩越しに、挑発するようないやらしい笑みで私を一瞥する椛さん。私の渚帆さんは、もうあたしの女だと言わんばかりのあの表情に、そしていまだに肩に回されている右手。


 身長差があるのに無理をしてまでのあの姿勢……キツくないんでしょうか? いえ。そんなことよりも、この状況…………NTR!? これがこの間クラスメイトの蘭越らんこしさんに教えて頂いたNTRと言うやつなのでは!?


(むむむ。蘭越さんは興奮するとかゾクゾクするとか仰っておりましたが、普通に悔しいです)

(んおぉ。悔しがってる悔しがってる。ふぅ)


 しかし、この状況を覆すにはどうすれば……。

 仕方ないですね。2人の世界に入り込み、なおかつ私がもう一歩先に進むにはあの方法しかありません。その為にはプライドなど安いモノです。


 ガタッ!!


 私は、意を決して勢いよく立ち上がります。


「!? ど、どうした小春子」

「わっ!! もしかして怒っちゃった?」


 スススススッ……ストン


 私は、椛さんの左隣にそっと腰掛けました。


「「?」」

「椛さん。私に勉強の教え方を教えてください」


 おもち





















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