第8話 お酒、飲みたいんだ
出かけた時に天気が良かったから、今日は晴れるかなと思っていた。 ところが、昼過ぎには半島全体が雨雲に覆われ、風も強くなった。 秋分の日を境に、一雨ごとに数度下がり、そして、冬に入ると言われる。
今夜も以前のように浜辺を散歩して夜食を食べようか、と思っていると、クリスティが一枚のレコードを持ってきた。
「ショパンは好き?」
本屋の同僚たちはまだ帰っておらず、ある者は会計を数え、ある者はバーからグラスや屑を片付けているところであった。彼女は平気で足を丸めて、私の隣に座っていた。その時初めて、彼女がつけている香水がはっきりわかった。ゼラニウムのような香りだった。
「これは、僕の好きな演奏者のルービンシュタイン、演奏されたショパンだ。 高校一年の時に購入。」
「装丁がきれいだね。」私は中学時代ロックしか聴かなかったので、何とも言えない。だけど、クリスティが好きなものなら、いつも興味津々で調べていた。
「じゃあね 。」 同僚たちは次々と去っていき、前回私に詩集を渡した少年は、私たちに向かっていぶかしげにウインクをした。
彼女はまるで検査のようにそっとプレーヤーを拭いて、レコード針が滑りはじめた。窓外は風が遠く近く揺れ、玄関の葉も風に揺れ、擦過音と雨音が混在し、窓を閉めると急に静寂に戻った。雨は長く続くかもしれない。
「飲みたい。」私は立ち上がった。
「なに?」
「お酒、飲みたいんだ。」そのままフロントに向かい、中の冷蔵庫から汗だくでビールを二本取り出した。
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