第6話 詩集、ありがとう
「詩集、ありがとう。ツェランの詩がとても気に入っているんだ。」彼女は先を歩き、私は足を速め、顔を上げ、そう言った。
「いいね。好きなんだろうなと思って。」
それきり何も語らず。コンクリートの道を歩くうちに、太陽はすでに水平線から落ちていた。校内は意外に静かで、細かい石を踏む足音すら聞こえることもあった。
詩集に入れたメモに書いてあったように、日曜日の午後、Y大学前で彼女に会った。
夜がはじめると、校内の静寂が破られた。商店街は活気を取り戻し、学生や社会人たちが食事にやってくる。まるで事前に約束したかのごとく、私たちは積み重なった石ころの隣に立って、蒼い空を見上げていた。
「自宅近くの大学に通っているのは、どんな感じ?」
「まぁ、どこかに交換に行きたいと思ってるけどね。私はこの町のことがまだ、よく分かっていないみたい。 この町で育ったので、愛着があるんだ。」
「この選択は、凛ちゃんにぴったりだね。」彼女はそう言って、紺色のシャツを引っ張ると、とても細く見える首筋が現れた。
「どういうこと?」
「凛ちゃんはね、無謀でも保守的でもない人だと思う。計画があっても、それに縛られ切っていない人だよ。」
彼女の輪郭は夜に溶け、それに照らされ、顔立ちがより鮮明になる。そんな彼女の瞳に、実は少し圧倒されてしまったのだ。
「どうして休学したのか聞いてもいい?」
「そうね、両親が別れてから学校に行かなくなっただけ、二年生の時に。」弱音を吐いたわけでも、強がりを言ったわけでもなく、ずっと昔からすべてを飲み込んできたという感じの声だった。
「ごめん、僕は言葉で感情を表したいタイプじゃないんだ。」
「作ることはある? 絵を描くとか、ピアノを弾くとか、いろいろ。クリスティが作ったものが興味深い。」と聞いてみた。
「僕は絵が描く。」
「いつか見ることができる?」
「いつかね、いつかね、まあ。」
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