第5話 少し胸が痛む
「他の時間は保証できないが、毎週土曜日の夜には店にいるよ、今日のように。」
ベッドに横たわり、彼女の言葉を思い返しながら、なかなか眠れなかった。シャワーを浴びた体からは花の香りがふわりと漂い、ゆらゆらと小舟に揺られているような気持ちがあった。
私は人の顔をよく覚えていないのに、交わした会話や彼女の一挙手一投足を考え出すと、少し胸が痛む。
連絡先も残していないようね。
次の土曜日に本屋に行くしか、彼女に会うチャンスはない。
最近では家にいて、ほとんどすべての本が読み終えてしまった。本を読まないと、飴色の渇きに陥っていくから。このままではいけないと、理性では思っていた。なので、心に隙を作らないように、読み続けたんだ。
ということで、本屋に足を運ぶことになりそう。そうでなければ、読む本はなくなる。だから、彼女との出会いのためではない。少なくとも主目的ではない。
今日は水曜日。
もう寒くなってきて、セーターだけでは寒さに耐えられない。トレンチコートとニュースボーイハットを身につけて、本屋に足を踏み入れると、私の名前が誰かに呼ばれた。
「凛ちゃん。」クリスティの声ではない。
「これは、凛ちゃんのものですかね? クリスティーは、凛ちゃんが残したものだと言って、私に持ってくるようにと言いましたけれど。」
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