快速列車は止まらない Chapter4 ~20世紀より~

chapter4 ~20世紀より~


車は高速道路に入って10分くらい経ったところで渋滞につかまってしまった。

そこでみふゆの父親が語りだした。

「ひばりちゃんのお父さん…信夫は、聞いたところによると俺と知り合う10年以上前の幼少期から

わんぱくで、外で遊ぶのが大好きな子だった。まあ実際に見たことの方が話しやすいからそっちを話そうか。

あれは忘れもしない1997年の夏、あの日は猛暑日だったから暑くてたまらなくてな。

仕事で取引先に行く必要があったんだが、涼しいオフィスから出たくなくて、

まあそれでも当時新人だった俺に拒否権なんてなくて会社を出て駅に向かったのよ」

すっかり暗くなった高速道路の街頭が助手席のみふゆの左頬を照らす。

「駅までは10分程度で着くんだが、実は徹夜明けで疲れていてな。来た列車に飛び乗って、そのまま寝てしまったんだ。

それで起きたらすごい田舎の終着駅で、なんと地下鉄から郊外に行く列車だったんだ。

訳が分からなくて駅員さんに聞いたらそこはもう少しで群馬県ってところで、取引先の最寄りまでは2時間かかるって分かったから、

仕方なく会社に事情を説明して、そしたらもう今日は来るなって言われて…」

渋滞が少しだけ緩和されて車がゆっくり動き出す。今度は街頭がそこそこの速度で流れていく。

「そのあとはとりあえず改札を出ようと思って、改札に向かったんだ。そしたら跨線橋の角で人にぶつかったんだ。

それがひばりのお父さんだった。彼はそのとき焦った顔で走っていたから、まあいつもの仕事関連だったんだろうな」

ひばりは父親の信夫の職業を知らないが、みふゆの父親は知っているようだった。

「そのときは彼は私服だったから、仕事もしないニートが当たってきたのかと思って無視したんだ。

こうして俺たちは出会った。その次の2回目の出会いはそう遠くないうちにやってきたよ。

その次の週末のことだ。俺は大学時代のサークル仲間と一緒に山登りをすることになっていてな。

夏の尾瀬沼に行ってみようって思って、上毛高原駅からバスに乗ったんだ」

車は東北道を走行中だ。

「それを終点の大清水ってとこで降りたら、なーんか見覚えのあるやつがいて、それが信夫だったんだ。

彼も俺の顔を見て思い出したらしく謝られちゃって、それで少し話しながら鳩待峠まで行って、そしたら結構話の合うやつでな。

あとは電話番号を教えあって、その時はそこで別れたかな。」

少し行くと佐野SAの手前で渋滞があり、またハマってしまった。

「下山して、家に着いてから1度電話して話したんだ。そしたら家が近いことが分かってな。

それで妻と2人で伺ったりして、もともと梨花ちゃんの両親とは親しかったからそこで3人の両親は知り合ったんだ」

「そういえば私たち、そういう仲だったね」

「すっかり忘れてた」

と梨花は少し笑った。


あれ、でもだとしたらみふゆのお父さんは、私のお父さんが今どうしているか知ってるのかな…


渋滞の中でも少しずつ車は進み、ようやく佐野SAに入ることができた。

「すこし、休憩しようか」

そうしてひばりのお父さんに関する話は終わってしまうのだった。


_____


家に着くと、またそこは暗いダンジョンのような雰囲気を放っていた。

ひばりはもう慣れていたので、無言で家に入った。

そしていらないものを家に置いて、軽く掃除だけして現在の住処のみふゆの家に戻った。

家に戻ると、明るいリビングからいつも通り輝くような笑顔でみふゆが出てきて、

「おかえり、みーちゃん」と言った。

「ただいま、ふーちゃん」

「なんでそんな照れてるのー」

「照れてないよー!」

「照れてる!」

「て、てれてぇなんか…」

お互いが見つめあう。

「ぷっはっはw」

みふゆが豪快に笑いだすのでつられてひばりも笑ってしまった。


その後は夕飯を食べて、おみやげを軽く食べて、風呂に入って、そうしているうちにすっかり日が変わる時間になった。

みふゆやみふゆの母親などは先にベッドに向かったため、リビングにはひばりとみふゆの父親だけがいた。

ひばりは

「じゃ、じゃあわたつぃもそろそろ寝ますね」と小さな声で言って部屋から出て行こうとした。

すると後ろから大きな声で呼び止められた。

「ひばりちゃん」

「!?」

おどろいて少しよろけてしまった。

「何か、言いたいことがあるようだね。遠慮せず、聞いてごらん?」

心を読まれたことにさすがだと感心し、勇気を振り絞って聞くことにした。

「あの…」

「うん?」

「私のお父さんが今どこで何をしているか…もし知っていたら…知っていたら教えていただきませんか」

「信夫はねぇ…今は…どこで何してるんだろうね。もう何年も話してないからわからないなぁ」

と言われてしまった。

「そ、そうですか…すみません」

「なんで謝るのさ…」

その直後ひばりにはみふゆの父親が

『謝らなくちゃいけないのはこっちの方だよ』と言っているように見えた。


そうしてこの夜は終わった。


_____


ありふれた“言葉”の中には本音と建前という2つがあるのが一般的だ。本音はその名の通り、真実である。

建前は嘘。じゃあみふゆの父親の本音は?

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