快速列車は止まらない Chapter3 ~キャンプ~

chapter3 ~キャンプ~


11月も終わりに差し掛かった。

今日はひばりは梨花とみふゆに誘われてある湖にキャンプに来ていた。

「やったー!1年ぶりのキャンプだー」と梨花は大騒ぎ。

今回は梨花とみふゆの両親やみふゆの妹たちも来ているということで総勢9人でのキャンプだった。

湖岸の指定された場所にテントを立て終えると、梨花とみふゆはキャンプの受付に行って釣り竿と手漕ぎボートを借りてこようと言い出した。

あいにくだがひばりはつかれていたのでパスした。結局2人だけが行くことになった。

2人は仲良く雑談をしながら受付方面に消えていった。

残ったひばりは冬の澄み切った空を見ながら寝ころんでいた。

ふと横を見てみると一輪の花が咲いていた。

「わぁ、これって…ツワブキかな?」


すっかり日も暮れて梨花やみふゆが釣った魚を食べ、大人たちは酒をたしなみ、たき火で温まる。

「いやぁ、やっぱキャンプ最高だわぁ…」と梨花は言う。

「みーちゃんももっと楽しみなよ!そうだ、明日は朝釣りしてみない?」

「えぇ、私はいいよぉ。もともとインドア系だし、運動とかそういうの苦手だし」

「やってみたら面白いかもよ?ね?私が教えてあげるからー!」とみふゆが言う。そういえばこのころから梨花はひばりたちのところを離れて親の方の会話に入っていた。

「んーじゃあ、1回だけ。今回だけだから」

「ほんとー?じゃあ今日は早く寝て、明日何時からやろっか?5時?いや4時くらいからやる?」みふゆは嬉しそうにひばりに話しかける。

ひばりは…。

たき火ごしにうっすら見えたツワブキは、遠目だったせいか、枯れたように首を垂らして見えた。


翌朝、というかまだ朝とは言えない深夜の終わり?みたいな時間にひばりはみふゆにたたき起こされた。

「ほら!おきて!みーちゃん!釣りに行くよ」というみふゆの声でうとうとしながらも湖岸に向かった。

まだ太陽の存在が全く感じられない湖はいつかの自宅の雰囲気に似た、されどほんのり優しい濃い青色だった。

「あ、そういえば一応餌釣りかフライか、両方準備できてるけど、どっちやりたい?」とみふゆは聞いてきた。

しかしひばりはどっちもやったことがないため良し悪しなどわかるわけもなく、餌に触れたくないという理由でフライにした。

「じゃあちょっと1回やってみるから見ててね」とみふゆは言って竿を大きく振り、湖岸からだいぶ離れたところまで飛ばした。

そして3,4分と経たないうちにぱっと見25cmくらいの鯉が釣れた。みふゆはすぐにリリースする。

「私がサポートするからやってみて」と笑顔で言われて私は竿をぎゅっと握りしめる。竿を振ろうとした瞬間重心が想像以上に後ろに行ってしまい、よろけてしまった。

みふゆは少し笑って、「こうやるの」と抱きしめる形で両手を握り、サポートしてくれた。

完全にみふゆに抱き着かれている形だった。顔が赤くなり思わず

「あったかい」と小さなか弱い声が出た。

みふゆは抱きつき、握りしめた状態で竿を振りながら、ひばりの耳元で話す。

「ねぇ、私のお誕生日のときのこと、覚えてる?」

ひばりは嫌な予感を察知したが抱きしめられているような状態のため逃れることは不可能だ。

「あの日の午後、学校から帰ってきた後、あの花の中にあったキンセンカの存在に気が付いたの。

最初は小さいながらもきれいな花だなって。でもさ、あの花の花言葉は、失望とか別れとか…。

一体どういうことなの…。」みふゆの目にようやく登場した太陽の光が反射して、ひばりの目に刺さる。

「あ、あれはたまたま隣で売ってたのが混入して、それで、てか、私は全然気が付いてなかったし、」ひばりはあわててそう言う。

するとみふゆはこんなことを口にした。

「やっぱ、きーちゃん…なんだよね?」

「え?」ひばりはみふゆに信用されたことにおどろくと同時に不思議な感情を抱いた。

「ううん、ごめんね。こんな話して。せっかくの機会なんだし楽しく釣ろ!」

みふゆは腕で顔をぬぐって、それ以降一切その話には触れずに、釣りに集中した。

ひばりにはどうしたらいいのか分からず釣りもうまくいかなかったが、釣り自体は楽しかった、と思う。


フライ。これもまた1つのモノだ。flyはfryとは違い、こういった毛針のこと以外に飛ぶ昆虫や野球の打球でも同じ言葉が使われている。

言葉もまたモノなのかもなと。


やがて釣りを終えて、みんなで朝食を摂った。

ここでひばりはふと思う。

(そういえば私だけ一人だな)と。

この場にひばり以外、幼いひばり以外の三木家の人間はいない。

誰一人として。


_____


この章節はありふれた日常からの転換の記だ。ただこのモノを奪い合う醜い生き物が少しの見栄とかいうプライドのために起こした戦争の発端であり、ある種の終焉である。

この世界は同じ過ちを繰り返す。だからまたこの日常からの転換を、似た形で記すことになるだろう。しかしそれは似たもので合致するものではなく、何か大切なモノが変わるのだろう。

じゃあモノっていうのはどのくらい形を保つのだろか。


_____


そうしてキャンプから帰る時間になった。

楽しい1日を天から見守ってくれた太陽は西に大きく傾いて、今にも隠れてしまいそうだ。

「みーちゃん!キャンプ楽しかった?」

「うん。誘ってくれてありがとう、楽しかったよ」

今回は2台の車に分かれて来たため、帰りも分かれ、うち1台にひばり、みふゆ、梨花と梨花の父親が乗っていた。

そのうちみふゆが助手席、梨花とひばりは後ろの座席に座っている。

「二人はさ、昔…というか、中2とかの時からキャンプ来てたの?」

「んー、あぁ、そういえば誘ってもみーちゃん来れなかったから途中からあんまし誘ってなかったもんね。

中2の頃から大体多くて2か月に1回くらいの頻度で来てるかなあ」

「そうだね、最初の方はなんもうまくいかなくて大変だったし、ほかの人に聞くのも怖くて…」

みふゆが助手席でつぶやく。

「ねえ!今回のキャンプが楽しかったなら、次は栃木の中禅寺湖とか行ってみない?

菖蒲ヶ浜っていうところにね…」

「あ、そこならこの前の台風で閉場しているって聞いたけど」

「えーそうなのー…」

そんな話が続く。

「キャンプかぁ…」

思えば幼稚園から小学校、そして今に至るまで、ほぼこういった外出を避けてきた…というか

自ら行こうという意思がないとやらないだろう。

するとみふゆの父親が言った。

「ひばりちゃんのお父さんはあんなにアウトドアタイプで、釣り、山登り、キャンプ、なんでも好きだったのにね」

「えっ?」

「はっ?」

「そうなの!?」

3人同時にみふゆの父親の方を見る。

「お父さん…知ってるの…?」


「あぁ、すこしだけな。昔のことなんだがな」



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