第21話 契約

 時は数時間前に遡る。


「急に呼び出したと思ったら。そんなことになっていたのね。」


 章吾は斬里華を工業団地片隅の公園に呼び出していた。斬里華のここまでの交通費とかは章吾が負担した。


 というか斬里華は思いきり学校を無断欠席扱いになっているが気にしている様子が無い。普段からよくさぼっているんじゃないか?


「ああ、今から会いに行ってくる」


 章吾は貴資が弟であることと、奴が隠れみのに使っている第八運輸の事を斬里華に話した。


「あの黒い奴の居場所が分かったのはいいけど、対抗手段があるの?このあいだはいい様にやられてたじゃない」


「まあ、その辺は何とかなると……思う。こっちも虎の子の切り札を使わせてもらう」


「そう。それならいいんだけど」


「それに、いい様にやられてたのは君も一緒じゃないか」


「う、うるさいわね」


 斬里華は少しムキになる。かわいいところもあるじゃないか。


「それでいいの?あの黒い奴、弟さんなんでしょ」


 ちらりと流し目でちらりとこちらを見る。肉親と戦えるのかと問うているのだ。


「確かに心苦しいが、あいつをそのままにしておくと犠牲者が増える。倒す覚悟は決まっているよ」


 自分と弟との殺伐とした関係性を一から教えるのもめんどくさいし意味もない。章吾は映画のような台詞を言ってごまかした。


「そう。そこまで覚悟が決まってるのならいいわ」


「ああ、それで君には、貴資以外の連中を抑えて欲しいんだ。あの〝賢者モンスター〟って奴も出てくるだろうし、一緒に相手をするのはさすがにきつい」


「分かったわ。私もあの黒いのに一矢報いたいのは同じだし」


 斬里華は少し考えるように指を自分の頤(おとがい)に当てるとそう言った。


「でも、そ、そうなるとあれが必要ね」


 斬里華は少し動揺している。


「あれって?」


「従魔契約。今の私はとある理由で魔力を補給する手段が無いの。それに貯蓄してた分もこの間使っちゃって無いし」


「それで、無尽蔵に魔力を溜め込んでるあんたとを繋いで魔力を分けてもらわないと闘えないわ。それが従魔契約」


「そ、それで、そのを繋ぐ方法何だけど……」


 斬里華は急に赤くなって俯いた。


「あ、ああ、キスしなきゃいけないんだろ」


 章吾は横浜の事件での斬里華の接吻を思い出した。あの時も契約がどうのと言っていた気がする。


「直接的な表現で言うな!!」


 ゴスッ!!腹に斬里華の拳がめり込んだ。


「おふう」


 いい具合に決まったがダメージは無い。


「ま、いいわ。ちゃっちゃとやっちゃいましょう。アム・イル・フルムの名において、我、咏ヶ良 斬里華はこの者を従魔とす」


 すばやく呪文を唱えると、斬里華は唇を章吾に押し付けた。今度は前回のように唇での接触だけでなく、より深く経路をつなげられるように、舌まで入れてきた。元恋人のつかさと別れて以来、久しく感じた事のなかった甘美な感覚が章吾を襲う。


 時間にしたら短い、しかし、章吾にしてみれば長く感じた間、唇を重ねた後二人は身を離した。


 つつーっと、斬里華と章吾の間に唾液が伝う。二人ともしばらく無言だった。確かに斬里華との間に魔力の経路が繋がった気がする。


 こんな具合で、斬里華は章吾の後をつけていて第二貨物置場に来た後、魔法で狙撃できる位置に身を潜めていたのだ。



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