破章 そしてその魔眼は見つめ続ける



そんな自分を記憶がない筈なのに助けてくれた心の暖かさに魔王は感激し、初めて泣いた。


『おいおい、どーした!なくこたあないだろうよ…酒でも飲んで、な!話は聞くよ』

ジメジメイは話を聞こうと言ってくれた

しかし、信じてもらえないのはわかっている。

言ったところで笑われる運命だ。

それでも魔王は言ってしまった。

自分が魔王と呼ばれていたこと、勇者を倒したこと、全て話した


するとジメジメイは『信じるよ』

と言ってくれた

『何故だ? 俺の話は根拠がないんだぞ?ジメジメイ』

『たしかにな。けど、なんだか、もしほんとうにそうなのだとしたらすごく寂しいじゃんか…そんなのあんまりだよな。少しずつでいいから 魔王って名前を作ってみないか?

お助け屋みたいな、ことでもいい。まずは知名度をあげよう。俺も協力する』


ジメジメイは根拠のない嘘かも知れない魔王の言葉を信じてくれた。

魔王はその優しさに心打たれて泣いた。泣いて泣いて泣いて …




泣いて。


気づいた時にはジメジメイが

小さく蹲ったまま動かなくなっていた。




魔王に協力したことで、周りから忌み嫌われてしまったジメジメイは、魔王への見せしめに殺されたのだ。


下級モンスターであるがゆえ死んでもかわりが量産されるという扱いが

この結果を生んだ。

ジメジメイは人型モンスターのため、

人間を陵辱するのが好きなモンスターからは人気がある種だ。


ジメジメイの死体にはホチキスのようなもので穴という穴が塞がれており、体内からは溢れるばかりトロルの体液が溢れ出てきたという。


惨たらしい死だが、誰も悲しまなかった。

下級モンスターは死んで当然。

上級モンスターの遊び道具となり魔力源となり滅ぶ運命なのは魔王が勇者から魔界を救っても同じことだった。


憎悪。

憤怒。

魔王の拳は強く握りしめられ皮膚が破け血が滴っていた。

『これが…救った結果?、、報われねえにもほどがあるだろうクソどもが。』


魔王はどうしようもない怒りを抑えきれず

その目を開眼してしまった。

青と赤が混じったその魔眼を。


見せしめに幹部一人を半殺しにするだけでよかった。敵討ちのしたところで、また下級モンスターへの被害が上がるだけ。

魔王は威嚇射撃程度のつもりで自らの力を使った。



その眼さえ見せれば圧倒的に魔力の前にひれ伏し、魔王の存在を思い出すだろうと…その程度でよかった筈だった。

しかし 孤独は怒りへかわり、それは相手の魔力を完全無効化し、自分のものとする呪いの力に変わっていた。


ザァザァと砂のように崩れていく幹部の一人。 周りの魔族たちが悲鳴をあげ、砂となった幹部へ駆け寄る


『な、なんだ、これは、、どうなっている』

魔王は恐れた。しかしそれ以上に魔族たちが魔王を恐れた。


気づいた時にはもう遅かった。

魔王の周りには共に戦い城を守りぬいた魔族たちの亡骸があった。

殺されそうになりとっさに開眼した魔眼と

勇者を倒したことにより授かった翼と相手の魂を感知できる心眼…そして圧倒的魔力…

必死で使ったその力は勇者軍を抹殺する筈のものだ。


勇者の死骸が目の前にあるのなら喜ばしいことかもしれない。幹部である アンベリアルが斧をふりかざす瞬間、記憶を失っていたはずの一人の少女が魔王を庇ったのだ。

その少女こそ、魔王が愛した娘だった。


『やっぱり、、おかしいよね…今更思い出すなん、、、て』

娘の背中がバッサリ割かれて赤いカーペットが敷かれた。

『…なぁ、、こんなことになるくらいなら、おれは…俺は…だって…こんなの、こんなのって、、なんのために…俺はァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア』



魔王は魔族幹部の八割と愛した娘と…その他諸々を殺害し、自らも自害した。


それから100年後…

魔王と呼ばれた男の遺体は勇者団体で保管されている。

魔力によってその体は朽ちることなく残っており、厳重保管されているそうだが、どうも可笑しな点が一つ。

両目だけが何者かによってえぐり取られてしまっているようで

その眼だけが行方不明であった。

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