第105話 思わずにやけそうになってしまう


 そしてレンブラントは俺を見つけると、自分の弟子が申し訳ないと頭を下げ、謝罪をしてくるでないか。


「え? いや……その……」


 しかし俺はというと、どこから指摘すればいいのか分からずしどろもどろになってしまう。


 そしてしどろもどろになってしまう事により俺とレンブラントの差を見せつけられているようで、胸の中に怒りが込み上げてくるのだが、その怒りは今までであればレンブラントに対して向かっていたのだが、今回は俺自身に怒りの矛先が向いているではないか。


 ドラゴンの背中から降りて来たレンブラントを見て動揺してしまう自分も、レンブラントに頭を下げられてしどろもどろになってしまう自分も、そして『実は本当にレンブラントは俺よりも強いんじゃないのか?』と思ってしまう自分も何もかもが腹が立つ。


 こんな事など初めてであり、どう自分の感情を処理して良いか分からず、俺は黙ってしまう。


「そうだよな、お前が怒るのも無理ないよな……。 本当にすまない。 弟子のレヴィアは良かれと思って助けに来たつもりであろうが、所詮はまだ学生の身であり、そんな小娘が前線に来たところで宮廷魔術師のお前の邪魔をするだけだよな……。 しかもこれが普段の任務であればまだしも、と言っても普段の任務も邪魔をしてはいけないのだが、王国の存続を左右するレベルのスタンピードを終わらす為の任務を邪魔させられたのだからダグラスが言葉にならない程怒ってしまうのも理解できるつもりだ。 本当に申し訳ないっ!!」


 そしてこの沈黙を、レンブラントは俺がそれほどまでに怒っているからだと勝手に勘違いしたみたいである。


 そんなレンブラントの姿を見て俺は一つ最低な事を思いつき、思わずにやけそうになってしまう。


 そうだ。


 こんなに頭を下げて謝罪しているのだから、きっとレンブランは俺に対して償いをしたいと思っているに違いない。


「分かった……。 あの少女もまだ学生ならば正義感に駆られて飛び出してしまうその気持ちも分からないではないしな」

「ほ、本当かっ!? いやぁ、持つべきものはやはり友達だな」


 俺がそういうとさっきまでの申し訳なさそうな態度は一気に消え去り、馴れ馴れしくおれの方に腕を回して友達だと言ってくるではないか。


「あぁ、確かにそうだな。 しかしながら親しき中にも礼儀ありと言うだろう? 流石に今回の件で俺もかなりの迷惑を被ったわけだ。 だから償いとしてこのスタンピードを今日一日だけで良いから俺に代わって終わらす為に働いてくれないか?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る