第93話 少女の才能が恐ろしい


 これではまるで俺たち宮廷魔術師が不甲斐ないから国王陛下が懐刀をわざわざ抜いて向かわせたという事であり、そのために今国王陛下は今懐刀がいない分護衛面が薄くなっている状況であるという事でもある。


 その事は、俺のプライドをズタズタに引き裂く程には衝撃的な事であった。


 そもそも国王陛下の懐刀というポジションがある事を知らなかったという事もあるが、それは防衛上(それが例え宮廷魔術師であろうとも)隠していた方が良いというは理解できるのだが、それが何故俺では無いのか、ここ王国で一番の強さを誇ると自負している俺を差し置いてでも国宝陛下の懐刀に相応しい実力の持ち主がるとでもいうのか? そしてソイツはこの俺よりも実力は上だとでも言うのか。


 ここまで考えた時、俺は嫌な予感がしてしまう。


 そしてこういう時の嫌な予感というのはだいたい当たるものである。


「何ボケっとしているの? 私が今さっき行使した魔術は詳しい事は外に出すなってお師匠様であるレンブラント様から口酸っぱく言われているから教える事はできないけど、重力を利用した魔術なんだけど、だからこそスライム系や、防御力が強い魔獣の中には生き延びている可能性が高いから集中力は切らさない方が良いですよ? ほら、こういう魔獣はまだ生きているので」


 そんな事を考えていると少女が、先ほどの魔術では殺しきれない種類の魔獣がいるから集中力を切らさない方が良いと言ってくるではないか。


 そしてその瞬間に虫系の、あまり大きくない一メートル程の魔獣が、他の魔獣の死骸の中から俺に目掛けて鋭い歯で嚙み千切らんと飛んでくるではないか。


 流石にこの距離は魔術を行使するのも間に合わない上に剣を抜刀するのも間に合わない為、敢えて魔獣に俺を噛ませて、その隙に魔獣を殺すしかない。 万が一毒を持っていればそれまでだと諦めよう。 そう判断したのだが、虫系の魔獣は俺を攻撃する前に少女が無詠唱の炎魔術で焼き殺してしまった。


 つくづくこの少女の才能が恐ろしいと思ってしまう。


「す、すまん……」

「まったく、こんなんで本当に私のお師匠様に勝てたのだろうかと、思わずにはいられないわね。 とりあえず私の魔術の効果範囲外にいた魔獣たちがここに到達するまでに後方にでも下がれば良いんじゃないですか?」

「いや、足を無くしただけで魔術を行使できないわけではないからな。 流石に子供一人を置き去りにして逃げ帰って来たとなればどのみち『少女一人に背負わせてどうするんだっ!! 戻って援護しろっ!!』 と言われるのがオチだ。 ならば一緒に──」

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