第90話 実力のなさを恨めばいい


「ありゃ、足を持ってかれちゃってますね……っ。 私のお師匠様であるレンブラント師匠であれば恐らくダグラス様の失った足を再生できたのでしょうけど、私はまだそこまで習っていないので傷口を塞ぐ処理しかできないのですが、このままだと出血多量で助からないでしょうし、もし生きながらえたとしても竜の唾液などに含まれる細菌などで腐りはじめるので、根元から切らないといけなくなってしまうよりかはマシだと思ってそこはもう納得してくださいねっ!!」


 そして、一体誰が一撃で、まだ小型とはいえ竜種の頭を吹き飛ばせるほどの威力が出る魔術を行使したのかと思い振り向いてみると、そこにはレンブラントの弟子だと名乗る少女が長い黒髪を靡かせながら空中をかけて来て俺の元まで来るではないか。


 しかもそれだけではなく、件の自称レンブラントの弟子であると名乗る女性は俺の足の傷を無詠唱で行使した何らかの回復魔術で一瞬にして塞いでいく。


 普通これほどの傷ともなると高位の回復魔術師か神官によって数分間もの間回復魔術を行使し続けてもらう必要があるので、件の少女が簡単そうにやってのけた事がいかに凄い事であるのかが窺えて来る。


 そもそも攻撃系魔術師か、回復・援護系魔術師の両立ができている時点でおかしいのだが、攻撃魔術の威力と回復魔術の回復力そのどちらもがここ王国の中では間違いなくトップであると言えよう。


 そんな少女を見た俺の感想は『なんだこの化け物は?』である。


 そもそもこんな化け物がなんで今まで俺の耳に入って来なかったのか。


 もし来ていれば間違いなく弟子として取ったのはシャルロット・ヴィ・ランゲージではなくこの少女であっただろう。


 確かにシャルロットの才能は他の学生よりも頭一つ飛びぬけており、俺の弟子として相応しい才能の持ち主であるのだが、それでもこの少女には及ばない。


 むしろ俺では全く歯が立たなかった竜種相手に一撃で屠ってみせた少女の方が、認めたくは無いのだが戦闘面では上であろう。


 そしてそんな少女の師匠があのレンブラントというのが余計に気に入らない。


「ありがとう、助かったよ。 ところで、このスタンピードが終わったらレンブラントとかいう無名の魔術師よりも俺の弟子にならないかい?」


 なので俺はこの少女をスカウトすることにする。


 きっとこの少女もレンブラントよりも俺の方が良いと思っているに決まっている。


 なんせ俺は今王国一の魔術師であるのだから、そう思ってしまうのは致し方ないことであろう。


 弟子を奪われたと恨むのであれば自分の実力のなさを恨めばいい、レンブラント。

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