第89話 あぁ、死んだなこれは


 畜生……こんな事であればサーシャを犯しておけば良かったんだ。 


 サーシャとやらずに死ぬなど、それこそありえない。


 サーシャを犯すまで死ねない。


 死にたくない。


 死にたくないっ!!


 そう思い俺は今残っている魔力や気力、体力を振り絞って竜種まで雑魚共を蹴散らしながら一直線に向かっていく。


 後ろで俺の弟子であるシャルロット・ヴィ・ランゲージが俺に向かって何か叫んでいるのだが知ったことか。


 流石にいくら規格外のスタンピードと言えどもこの竜種が最後であろう。


 という事はこいつらを倒せばこのふざけたスタンピードも終わりである。


 そう思えば、終わりが見えれば無少しだけ頑張れる。


 そして空を飛ぶ竜種の近くまで行くと足へ魔力を注ぎ、跳躍し、空中を走る。


「死ねっ!! 死ね死ね死ね死ね死ねやくそがぁぁぁぁああああっ!!」


 竜種の飛んでいる高さまで空中を駆け抜けるとそのまま俺は自分が今行使できる一番威力の高い魔術、炎魔獣段位七【業火】を至近距離で行使する。


 流石に竜種と言えども炎魔獣段位七【業火】を至近距離で喰らえばタダでは済まないだろう。


 とりあえずこれで一匹は始末した。

 

 そう思った時、爆炎の中から竜の咢が出て来ると俺の右足に食らいつくではないか。


 その、炎魔獣段位七【業火】を至近距で喰らったはずの竜種の顔には傷が一つもついておらず、全生物の頂点に君臨している理由を見せつけて来るではないか。


 いくら宮廷魔術師になれるだけの実力があろうが、竜種からすれば少し強い人間程度にしかすぎず、それは俺たち人間からすれば少し大きな顎と毒針を持った蟻にしか過ぎないという事なのだろう。


 確かに他の蟻よりも大きな顎は人間の皮膚を突き破る事はできるかもしれな。


 その毒針は人間に突き刺せるのかもしれない。


 しかしながらその顎で人間に致命傷を負わす事はできないし、たった一匹程度の毒など数日で脹れも引いて、刺された跡すら残らないであろう。


 しかしながら攻撃した蟻は人間によって簡単に潰されて終わりである。


 それが俺と、俺の足を食いちぎった竜種とのであると思ってしまえるくらいには生物としての格の違いを突き付けられたようである。


 これほどの差を突きつけられれば、先ほどまでの気持ちの高ぶりなど消え失せ、抗う気力も無くなり、ただ死を待つだけの存在となってしまう。


 そして、件の竜種である赤色の竜が再度口を開けて俺を丸のみにしようとその咢を開け、俺に向かってくるではないか。


 あぁ、死んだなこれは。 そう思った瞬間、その竜種が弾け飛ぶではないか。

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