第82話 少しだけ罪悪感が芽生えて来る、



 その中でも確かに一人だけ他の者と違って頭一つ強い者がいるのだが、それでも空も飛べぬ、ただ防御力が高いだけで動きも鈍い地竜ごときに苦戦しているようでは、まだまだ私にとって脅威にはなり得ない。


 もし勇者であったのならば地竜など聖剣を一振りで倒していたであろう。


 その点でもいかに勇者が化け物であったのかが窺えるのだが、逆に言うと勇者のような者がこの王国にはいないと分かっただけでも行幸と言えよう。


 そうそうあんな化け物などいてたまるかと思うのだが、いないのであればあとは蹂躙するだけである。


 しかし、だからと言って他の国にいないとは限らないので私はもう少しだけ様子を見る事にする。


 以前の私に足りなかったのは謙虚さであり慎重さでもあった。


 ようは自分の強さに自惚れていたのだろう。


 その点に関しては今回しっかりと見直してから人間を何年かかったとしても蹂躙して根絶やしにしようと思っている。


 それこそ私は数十年ぽっちですぐに死んでしまう人間とは違い何千年でも生きていられるのだから急ぐ必要も無いだろう。


 十年でも百年でも千年でも、どれだけ時間がかかろうとも人間を根絶やしにできたのならそれでいいのだ。


 急ぐあまりヘマをするよりもよっぽどいい。


 それに、もし勇者が現れたらそれこそ百年近く逃げ隠れて勇者が寿命で死ぬのを待てばいいのである。


 逃げるのは癪だが死ぬよりかはましであるし、百年ほど人間を根絶やしにするのが遅れたところで私にとっては誤差でしかない。


 そんな事を頭で計算しながら私は闇の力で私の子供たちである魔獣を生み出しては地上に送り続けるのであった。






 ここ数日で一気に周囲から住人はいなくなり、子供の声一つすらしなくなっている。


 その理由は思っていた以上に今回の魔獣によるスタンピードは想像以上の規模であり帝国の守りが崩れ始めて来ており、それを王国が住人達へ伝え、万が一を備えてまずは女性と子供から比較的まだ安全な土地まで逃げるように王国が動き始めたからである。


 その話を聞いた俺は『おいおいダグラス、何をちんたらやっているんだよ』と思わず心の中で毒づいてしまう。


 しかし毒づいたところで良くなるわけもない上に、今最前線で必死に国民を守る為に戦っているのだと思うとほんの少しだけ罪悪感が芽生えて来る。


「ご主人様はよろしかったのでしょうか?」

「何がだ?」

「いえ、てっきりなんだかんだ言いながらも前線が崩れてきているという話を聞いたら一直線で助けに行きそうだな、と思っただけですので……」

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