第76話 知識があって本当に良かった、
「なぁ狸爺? この『スタンピードや竜種襲撃など魔獣による王国へ危機が訪れた場合は駆けつけて王国を守るように』という一文が小さな文字で、しかも契約書の端に、下手すれば見逃してしまいそうな場所に書かれているんだけど、これはどういう意味か狸爺の口から直接教えてほしいんだけど?」
それにしても前世の知識が無ければ間違いなく見逃してしまい、下手すればサインしてしまっていた事だろう。
こういう書類にサインするときは詐欺られないように隅々まで確認しなければならないという知識があって本当に良かった。
「そ、それは、王国が危なくなったときは助けるようにという事じゃな。 そうっ、別に深く考える必要はないぞっ! どのみち王国が危ない状況になった場合はお主とてこの契約を結んでいようといなかろうともどのみち日常を守る為に戦うのであろう?」
そして狸爺は俺の問いにまさにそれっぽい内容の返事をするではないか。
ようは『どうせ危険な状態になったら戦うのには変わりないだろう』という事には変わりないのだが、この契約書に書かれている言葉はそんなに生温い内容ではないことを知っている。
そもそも『任意』『強制』の時点で似て非なるものであろう。
まだ任意であれば『王国から逃げる』という選択肢を取ることが出来るのだが、この契約書に書かれている内容の場合は逃げるという選択肢が無く、最悪のケースは他国へ逃げる事も出来ずにそのまま王国とともに滅びなければならないという点である。
まぁ、俺の場合は王国が先に滅びてこの契約書の効力が消えるまで生き残る自身はあるのだが、それでも実際にスタンピードなど経験したことがないので未知数ゆえに俺ではどうしようもできない程かもしれないのでる。
にも拘わらずこの契約内容でサインする奴は只のバカであるとしか言いようがないだろう。
いくら年収が跳ね上がるからと言っても死んでしまったら意味がないどころかマイナスでしかない。
恐らくこの内容(任意ではなく強制)にした理由は、国王陛下やその側近、周囲の人間が王国を捨てて逃げる可能性を想像すらしていなかったのであろう。
「申し訳ないのですが国王陛下。 この内容ではサインする事はできかねます」
「…………そうか。 無理強いしてすまなかった。 別に断られたからと言って何か報復をしようとも思っておらんので安心してくれてかまわない。 ただ、もし王国がピンチになった時は少しだけでもいいので助けてくれるとありがたい」
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