第52話 相手も手練れである、

「お前、何をしたっ!?」

「何をしたって、敵にはいそうですかと教えるわけないじゃん。 馬鹿なの? あ、そういう事か。 お師匠様はこういう、初めて見た攻撃をされた時にでも冷静に判断して相手が行使した魔術がなんなのか考える癖を身につけるという意味でも答えをすぐには教えなかったのねっ! 先の賊の『お前、何をしたっ!?』という発言は流石に間抜けとしか言いようがないもんねっ!! これぞ反面教師というやつねっ!! 確かに今までお師匠様が行使した魔術の数々を見て『どのような魔術か教えなさいよっ!!』と言ってお師匠様が素直に教えてくれていたら、きっと私も分からない魔術を行使されたらこの賊みたいに敵に何をしたのか聞いてしまいそうだもんねっ!! 流石お師匠様としか言いようがないわっ!!」


 正直いって私もかなり腕の良い魔術の講師を雇って日々勉強しているのだが、この少女が先ほど行使した摩訶不思議な攻撃方法がなんなのか全くもって理解できないので、思わず『お前、何をしたっ!?』と敵である少女に聞いてしまった敵の気持ちも分からないではない。


 先ほど少女が敵を吹っ飛ばした時に魔力を感じ取ったのでおそらく魔術か何かの類ではあるのだとは思うのだが、残念ながら今の私ではそのくらいしか分からない。


 その事が『もしかしたらこの少女であれば未知の攻撃方法でなんとか相手がこの攻撃の対処法を思いつく前に倒してしまえるのではないか?』という淡い期待が少しだけ見えたような気がした。


「このクソガキ……言わせておけばっ!!」

「おい、冷静になれ。 相手の煽りに乗ってどうする。 分からないならば分からないで相手に使わせないようにこっちが攻撃しまくれば良いだけの事であろう。 ガキだと舐めてかかると痛い目に遭うぞ。 冷静になれ」

「す、すまん。 それもそうだな」


 しかしながら流石相手も手練れである。


 一人が少女の煽りで怒り始めたのだが、別の一人が冷静になれと嗜める。


 その事からも一つの小さなミスでも全てが台無しになる事を想像できるくらいには徹底して行動をとる事ができるのであろう。


 普通であればこういった賊たちはメンツを大事にする傾向があるので舐めてかかるような言動をされた場合は我を忘れてキレ散らかす者も少なくはない中、やはりコイツらは賊というよりかはどこかの大貴族か、最悪何処かの国に雇われた腕利きと考えても良いのかもしれない。


 そういう連中もいる可能性はなくもない事くらいは理解していたのだが、それでもどこか他人事のように考えていたのだから笑えない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る