第49話 値踏みし始める、


──きっとこの場所も近衛兵や宮廷魔術師たちが見つけ出してくれて私は助かるものだと思っていたのだが、その唯一の希望も砕け散ってしまった。


 あの石がある限り宮廷魔術師達は私を見つけ出すことなどできないだろう。


 こんな事ならば側使えであるメイドの言う事や近衛兵の言う通りに大人しく馬車の中で待っていたら良かったのだ。


 みんな口を揃えて言っていたではないか。 『貴女は王女なのですから、王族の血を引いている以上一人で行動するのは危険です』『一人でいると危険ですから必ず近衛兵と側仕えのメイドを数名おそばに置いてください』『誰もお側に置けない場合は決して一人で行動はしないでください』などなどと口を酸っぱく言われていたではないか。


 これだけ口酸っぱく言われるという事は、そのくらい危険だからである。


 その事は頭では理解していたのだが、それでもやはり『そうそうそんな事など起こらないだろう』とも思っていたし、だからこそ私はみんなの目を盗んで遊び半分で逃げ出したのである。


 いつも側に誰かがいたからこそ、一人の時間というのに憧れがあったし、一人で城下町を歩くのも夢のひとつでもあった。


 どうせ大人になったら一人で出歩くなんて事はまずできなくなってしまうであろう事は容易に想像できていたため、一人で出歩く機会は子供の今しかないと思ったのである。


 子供だから許される、というのを子供ながらに理解してしまったからこそ大人の目を盗んでに逃げ出したのだが、今やあの時逃げ出した事に後悔しかない。


 そんな事を思っている間も賊たちはここから逃げる準備を淡々と進めていき、その過程で私の口には猿ぐつわを嵌められ、ずた袋へと入れられそうになる。


 おそらくこのまま私を商人を装った荷馬車の奥に詰め込まれて、国境をでるつもりなのだろう。


 そうなったら私はもうこの国の土を踏むことは一生ないだろう。


 そう思うと後悔と悲しさ、怒りで涙が溢れて止まらなくなってくる。


「あっ、お師匠様のいう通りお姫様が誘拐されかけているじゃなないっ!! あなたこの王国のお姫様よねっ!? 私パレードで何度か見たことあるもの」

「あ? なんだお前? どうしてここが分かった」

「追っ手が来たかと一瞬ヒヤヒヤしたが、どうやら嬢ちゃん一人できたようだな。 ふむ、なかなか美人だしその少し若い気もするが若すぎるという事もないだろう。 これはいいボーナスになるな」


 そして賊たちは一瞬追手がやってきたのかと強張るのだが、一向に少女以外現れない所から少女単身でやってきた事を察すると即座に少女を値踏みし始めるではないか。

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