第43話 同じ過ちは犯す俺ではない

 そしていよいよ後戻りが出来ないという状況になったその時、教室の扉が勢い良く開くと愛しの奴隷様であるリーシャが現れてくれた。


 正に最高のタイミングである。


 そしてサーシャは忘れていたであろう羞恥心を取り戻したのか、下着姿を隠す様にしゃがみながら甲高い悲鳴をあげる。


 もし、この場をリーシャではなく別の誰かで有れば、この状況をみたら俺が加害者でありサーシャが被害者であると勘違いしてしまうであろう。


 ある意味で俺はリーシャにはサーシャを止めてくれた事と冤罪にならずに済んだ事の二つの件で助けられた為今晩はめいいっぱい可愛がってあげるとしよう。


 それで今回の貸しは帳消しとまでは行かないまでもそれなりには考慮して貰えると助かる。


「ご主人様、貸しニ、ですからね。それとは別に常に愛していただけると嬉しいのですが?」


 どうやらそうもいかなかったらしい。


 そして、俺の耳元で囁く愛しの奴隷様は実に可愛らしい笑顔でそう言うでは無いか。


 男性という生き物は、例えそれが自分の事が可愛いと思っているであろう計算され尽くされた笑顔であると分かってはいても、貸し借り無しで今夜は可愛がってやろうと思うくらいには心底バカなのだろうなと自分自身でそう思う。


 先に惚れた方はまるで愛の奴隷だな。


 そんな事を思いながら俺達三人は新しく出来た喫茶店へ向かうのであった。





 あれから一週間程経った休日を利用して俺達は少し遠くの方まで遠征に来ていた。


 囀る鳥の声。


 ニーニーと聞こえてくる春に鳴く蝉の鳴き声。


 涼しそうに流れる清流の川の音色。


 涼しい外気温。


 雲こそあるものの雨の心配は無い程の青空に輝く太陽。


「良い場所だろう?」


 夏ここでバーベキューをすれば最適であろう。


 照りつける太陽の元で水着姿の愛しの奴隷様に焼けた肉の匂いに冷え切ったビール………今年の夏は絶対来ようと心にメモをしながら、俺は愛しの奴隷様へ、ここは良い場所だろうと聞いてみる。


「ええ、そうですね。時折り遠くの方で微かに聞こえてくる爆発音と、その衝撃に揺れる地面、死にゆく魔獣の断末魔に、恐れ慄き飛びざり逃げ惑う小動物達の足音や鳴き声が無ければ、とても素晴らしいと思います」

「はは、愛しの奴隷様は手厳しいな。そこは『ご主人様と一緒であれば私にとってはどこでも良い場所へと変わります』と言った方が可愛げがあったと思うぞ?」


 本当、そういう練習であると言ってやらせてみせた俺が言う事では無いが、遠くの方で微かに聞こえてくる音と伝わって来る地響きが全てを持っていってしまっている。


 せっかく考えない様にしていたのに。


「では、ご主人様と一緒であれば私にとってはどこでも良い場所へと変わりますわ。ぽっ」

「このこの、うい奴めっうい奴めっ」


 そして何だかんだで俺のネタに乗ってくれる愛しの奴隷様は、それはそれでやはり可愛い事には変わりない。


 コイツチョロいと例えば思われていたとしても今俺は幸せを感じれていればそれで良いのだ。


「アンタ、奴隷に言わせて嬉しいの?それ。そういう遊びが好きなんだったら止めやしないけれども流石に人前でそれをするのはどうかと私は思うわ」

「うるせぇーっ。恥ずかしいから言わせんな。今の俺はゴリゴリ削れて行く精神を回復する必要があるのっ!!」


 本当に、俺からすれば何でサーシャがここに着いてきているのかと聞きたいくらいだ。


 それを言うと機嫌が悪くなり最悪殴られた上に結局着いて来るので言わないけど。


 俺は過去の過ちからしっかりと学べる人間なのだ。


 同じ過ちは犯す俺ではない。


「全く、言ってくれれば私だって………」

「え? 何て?」

「な、何でもないわよっ! そう何でもないわっ!」

「肝心な所でヘタレましたわね」

「うっさいっ!! 今に見てなさいよっ! 私が正妻になったらこき使ってあげるんだからっ!」

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