第12話 回復、情報収集
翌日、フィアはもう普通に話せるようになった。流石に疲労していたらしくあの後眠り初めてしまったのだが、朝になったら普通に目を覚ましたのだ。
「………父さん、ごめん。もう少し警戒して森の中を歩かなきゃだった」
「いや、フィアの責任じゃないよ」
「………あと、助けてくれてありがとう」
「もう少し早く迎えれば良かったね。でも、助かって本当に良かった」
カーロは一番精神的な疲労を抱えていたらしく、フィアが眠りに就いた時に一緒に眠りはじめ、今もまだ寝息を吐き続けている。アーロは珍しく真剣な表情で、ハクとコクは険しい表情でフィアの事を見ている。
サーロは自分の横で座っていた。まだ彼の足は治っていない。
本当はもう少しフィアの容態を見守っていたい。ただ、しなければならないことはまだ残っている。一度フィアの頭を撫でてから立ち上がった。
「生き残ってくれてありがとう」
まだ横になったままのフィアが手の甲で
フィアの看護をハクとコクに任せて、家の外に出る。確認しなければならないことがあった。背中に翼を生やして、見知らぬ騎士たちと戦闘した場所へと飛ぶ。疲労感で戻ってこれないなどということがあったら困るので速度はあまり出さないようにした。
十数分ほどして、目的の場所までたどり着く。歩いて行くとかなりの距離だったが、こうして上空から見てみると随分と短く感じる。未だ残る惨状の中に着地した。
目的は、まだ生き残っているかもしれない騎士の一人から事情を聴き出すことだ。確か足を壊しただけで命を奪わなかった一人がいたはずだった。
見渡すも、その姿はない。流れ出た血液の乾いた匂いが鼻を衝いて、思わず表情を顰めた。一筋血痕が雑草の向こうへと続いているのが見えて、それを辿る。
「………あぁ、ここにいたのか」
「…………何を、しにきた」
騎士が目を見開いてこちらを見据えて来る。この一日が相当に辛かったのか、濁った瞳が乾いた光を放っていた。
「君たちが何のためにここに来たのかを知りたくて」
「…………教えるわけがないだろう」
「本当はこんなことしたくないんだけどね」
せっかく反応が見やすい人間という生き物が前にいるのだから、試してみたいことがあった。魔素を用いた威圧だ。
魔素というものは基本的には魔法の発動に使われるものだが、その本質は精神への異様な親和性を持った動力の一種に他ならない。そのため、その魔素に意思を持たせて扱うことも出来なくはなかった。
今回試すのは、怒りだ。どうせ彼らへの怒りなどどれだけ消費してもなくならない程に溢れているのだ。意図して込めるまでもなかった。
普段は魔法の発動に用いる魔素を、意志だけを込めて放った。
目の前の男が気の毒なほどに脅え始める。先ほどまでは死んでも死なない程度の気概を持っているように見えたのだが、今では震える体でこちらから距離を取ろうとするだけだ。
「それで、どうして君たちは攻撃したのか」
そう質問をすると、目の前の彼は震える喉で必死の説明を始めた。惨めだった。
「お、俺たちは、その龍の子を見つけて、それで殺さなきゃって思って………!」
「彼が何かをしてきたのか」
「そんなのどうだっていいだろう!? 生きてるだけ無価値だ!」
錯乱して、今はなしている相手が龍の子の一人だと言うことを忘れたのだろうか。もう少し真面な考え方が出来れば良いのに。それとも龍の子は真面な思考など出来ないと思われているのだろうか。
いずれにせよ、苛立ちは禁じ得ない。
「こんな森の奥に来た目的は?」
「じゅ、純粋な魔物の調査だ、その、最近強力な魔物の数が減ってるから、俺たちでも行けるってことになって」
男の額から汗が噴き出してくる。怖いのか、それとも焦っているだけか。
「まだ数は来るのか?」
「こ、後続がま、まだ来る!」
これで終わりだったらどれだけ良かったか。この男の話を信用できるわけでもないが、情報が何もないよりも格段に良い。まだ誰かが来る可能性があるのだったら、それに備えないに越したことはない。
戦えると思っていたフィアが今回被害を受けたこともある。少しは外出を控えてもらった方が良いだろう。
男はまだ喚いていた。反応するのが面倒だった。
昨日は無意識に使っていた魔法を、今度は意識的に使ってみる。方法だけを見れば単純だ。魔法で握り潰すだけなのだから。
昨日は怒りに任せて強引に魔法を使っていたため割と何も考えずに使えていたのだが、今改めて同じことをしようとすると案外難しい。
魔法は普通何かしらの現象を引き起こすものだった気がしていた。火を起こす、風を呼ぶ、水を凍らせる、等々。ただ、自分が使っている物は少し違うらしい。どちらかというと物理的な動きを自分ではない体で行う感覚に近い。
ただ、自分でもあまり良く分からないのだが。
頭の中で彼の首を捻り潰してみる。同時に、現実でも同じことが起こった。手で触っているわけでもないのに少し感覚があるのが不思議だ。
転げ落ちる男の頭を眺める。人を殺めたらもう少し何か心が乱れるものかと思っていたのだが、想像以上に何も感じなかった。
自分のことを殺そうとしていたからだろうか。分からない。
何にせよ、この魔法は便利なものだろう。それが分かっただけ良しとしたかった。
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