第9話 蛇三人衆と新築の話

 ついに蛇三人衆が人型になった。と言っても彼らは人型であるか蛇型であるかはあまり気にしていない様子なので、いつから変化できるようになっていたのかは良く分からないのだが。

 アーロ、カーロが女で、サーロは美人だけど男だ。アーロはいつも寝ていることから分かる通りおっとりした顔立ちをしていて、カーロは高身長でさっぱりした顔立ちだった。サーロは長い髪を後ろで纏めている。


「ほら、アーロ。ご飯」


 食卓を囲んで眠りそうになっているアーロに声を掛けて、肉を手渡す。この食卓はかなり頑張って作った。自分に建築のセンスがないことが分かったが、サーロに手伝ってもらって作った。うん、彼はとても優秀だね。素晴らしいね。立場がなくなりそう。

 ちなみに三人は俺のことをお父様と呼んでいる。強制したわけじゃないです。勝手にそう呼び始めました。三人とも自分より難しい単語とか知ってそうだし、その知識が何処から来ているかは分からなかった。


 まだ眠そうなアーロが無事に食事を食べ終えるのを見届ける。最近ではカーロの指示に従って食べられる山菜っぽいものも採取しているため食卓がかなり充実していた。


 蛇三人衆が人型になれるようになってから、この家は随分と充実している。未だに岩穴に暮らしているという事実は変わらないのだが、かなり過ごしやすかった。生活の色々な面で彼らに助言をいただいている訳でして。本当に優秀ですね。本気で立場がなくなりそう。


あるじ、私もそろそろ外に出てみたいのですが」

「最初は一緒に行かせてほしいけど、それが終われば良いよ」


 前よりも随分と落ち着いた口調で話すようになったのは、コク。ここ最近コクとハクの成長が著しい。成長と言っても身体的成長で、少し前までは見た目が五歳児程度だったのに対し、今では自分と同い年位に見える。

 ちなみにハクもお父さんとは呼んでくれなくなった。コクと同じように主と呼ばれている。何なら蛇三人衆やフィアもそちらで統一した方が良いかもしれない。若干恥ずかしくなって来たし。


「あ、私も行きたいです」

「分かった。一緒に行こうか」


 ハクも立候補してきた。昔は抜けている印象があった彼女だが、コクの真似をして敬語を使うようになりもしたし、随分と印象が変わった。ただ時折気を抜くと以前のような性格が垣間見える。

 何にせよ、二人の成長はとても嬉しい。いつか自分の手を巣立っていくかもしれないけど、そうなったらそうなったときに考えれば良いだろう。今の内は一緒にいる幸せを楽しませてもらいたい。


 ちなみにフィアについては、以前とあまり変わっていない。

ただ、言葉を話すことの重要性を学んだらしく、最近では片言ではなくなって来た。人型になったのが大体一月前だというのに、成長ぶりが凄まじい。


 彼らはどうして人型になるのだろうとか、そういう疑問は考えないことにした。下手に答えが出て自分の幻覚でした、などと言われても困るだけだし、現状に不満があるわけではない。いつか何か分かるかもしれないが、そうなったときに考えたいと思う。

 変に色々と考えてると無駄なことまで心配し始めるからね。いつの間に自分はここまで心配性になったのだろうか。最悪の場合を考慮するという範囲を超えて不安になるときが少なくなかった。


「お父様、まだこの家は拡張しますか?」

「どうしようか。他の家を作っても良いと思ってはいる」

「良いのではないですか? 幸い付近には木材は高品質なものがありますし、木造で良ければ幾らでも作れるでしょう。木の切り倒しや加工用の刃物が無いのは痛手ですが、石を使えば出来ないこともないですから」


 サーロは新築に乗り気の様子。ここまで人手が増えたのならば家を作ることは案外簡単に出来そうではあるけれどもが。木の加工に関しても、自分の龍化した手を使えば細かい作業が出来なくもないわけだし………。


 まあ、家を建てて何かの害になることは殆どないだろう。そう信じたい。

そうと決まれば、善は急げだ。明日ぐらいから取り組み始めることにしよう。なるべくフィアの助けも借りたいところだが、食料が無くなってしまうのも困る。カーロもフィアについて食料調達をいつもしてくれているから、手伝いは見込めない。

 アーロはきっと手伝ってくれるだろうけど、何となく不器用な感じがするので彼女に任せるのは不安が残る。ハクとコクに主戦力になってもらうことにしよう。彼女らは結構器用な気がするし。勿論自分も馬車馬の如く働きますけどね。建築関係は自信がないのでサーロに色々と指示を出して貰おうとは思ってるけど。


 取り敢えずの役割分担を全員に伝えておく。とは言え、普段としていることが殆ど変わらないから、そこまで心配する必要はないだろうけど。ハク、コクに加えて常識枠のサーロ、この三人には普段から諸々の作業を手伝ってもらうことが多かった。


「形はどうしますか?」

「一応全員分の部屋に加えて、できれば予備の部屋もいくつかあると嬉しいかな」

「分かりました。規模は大きくなるでしょうが、一般的な丸太小屋ログハウスで良いでしょう」


 今まで家を作った経験など勿論ないので、サーロがこうして色々と分かっていてくれているのはかなりありがたい。本当に。


「…………新しい家、嬉しいです」

「そうだね。アーロも手伝ってくれると嬉しい」

「…………当前です。手伝います」


 アーロが、眠そうながらもはっきりとした肯定の返事をした。

 普段はほとんど寝ているアーロではあるものの、身体能力だけで見ればサーロやカーロに引けを取らない。何ならばカーロよりも膂力はあるかもしれない。

 ただ、アーロが何か大きい物を運んでいると全身が隠れてその運んでいるものだけが動いているように見えるのは少し止めて欲しいけれどもが。前、明らかに命を落としているはずの猪の死体が一人で動いていた時には普通に衝撃だった。その下から血で顔を濡らしたアーロが顔を出してより一層衝撃だったけど。


 アーロがうつらうつらと船を漕ぎ始めた。穏やかな表情だ。それを見るサーロも優し気な顔をしていた。

 皆の仲が良くて良いね。

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