第7話 フィアの人型
こうして魔法の練習を始めたわけだが、想像以上に出来ることは少なかった。実践できたことと言えば火を魔法で起こすことと、自分の体の強化程度だ。
それだけでも随分と役に立つには立つけど、小さい頃に周囲が夢見がちで話していた魔法の万能性などの話を思い出すと、少し物足りない部分がある。
ただ、肉を焼く時に火が簡単に着けられるのはかなりありがたかった。最近は慣れて来たから気にはならなかったのだけれど、やはり火起こしは手間がかかる。
「父上! うさぎ!」
フィアが兎の足を掴んで家に飛び込んできた。
そう、実は最近フィアが人型になったのだ。ハクとコクと遊んでいたら、フィアが遊んで欲しいとでも言うように擦り寄って来て、そしてそのまま人型になった。本人も好きなように蜥蜴にも人にもなれるようだったので、どちらかの姿を強要することはしていない。ただ基本的には人の姿で過ごしていて蜥蜴に戻るような機会は殆どなかった。
フィアはハクやコクよりも前に生まれていたのか、人型になると十三、四歳の少年に見える。話すことは割と
「ありがとう、フィア。せっかくだから皆で食べようか」
嬉しそうに死んだ兎を掲げるフィアの頭を撫でる。うん、元気で可愛い。
前までは獣の解体に随分と手間取っていたが、自分の手に鉤爪が付けられることが分かってからは随分と楽になった。毛皮を剥ぎ、血を抜き、内臓を取り出し、等々。自分のしていることが正解なのかどうかは分からないものの、取り敢えず体は壊していない。ので大丈夫だと思う。大丈夫だと信じたい。
処理をした生肉を、家の中に居るカーロとサーロに渡した。サーロが部屋の外へと言ったからアーロを呼びに行くのだと思う。旧家の皆には、何か他の獲物を探してきて後で与えようと思う。フィアと一緒に仮に行くのも良いかもしれない。
もう随分と食器として馴染んできた木の串に細かくした肉を刺して、火に当たるようにする。小さく切っているから焼けるまでにはあまり時間は掛からないはずだ。
座って待っていると、組んだ足の上にコクが座りに来た。段々長くなって来たその髪を撫でてやる。こんな山奥で手入れもせずに過ごしていたら髪が
逆に、生まれの髪質のせいなのかはわからないが、フィアの髪はごわごわとしていてかなり固い。フィアの方にも手を伸ばして撫でるとフィアは首を傾げてこちらを見上げた。
「何でもないよ」
ハクも背中によじ登って来た。そろそろ肉が焼けそうだ。
火が通った肉を、串ごと三人に渡す。フィアは今回の功労者なので少し肉の数が多い。ただフィアは結局口がいっぱいになるまで詰め込んで食べるので量はあまり関係ない。多かれ少なかれ皆美味しそうに食べてくれるしね。自分としてはもう少し塩味が欲しい所なのだけれど。
塩味と言えば、調味料の類ももう少し充実させたいと思っている。そして欲を言うならば野菜の類も。ずっと同じように肉類だけ食べていると飽きて来るし、穀物食べたくなったりもする。そしてその最たる例が野菜だった。別にそこまで好きって訳でもないのだが、こうも食べてないと食べたくなるというもので。食事が偏ると体調を崩しそうだという危惧もある。
今の所異変はないから真剣に食事を改善しようとしているわけではないけど。
ぼんやりと食事をしながら、今度は自らの武器について思いを巡らせた。今現在使用している武器と言えば、拾った木の枝で作った不格好な槍だけだ。
何かしら他に遠距離で攻撃できるものがあった方が良いのだろうか。
「弓でも作ろうかな」
「………
「いや、弓は遠くからでも攻撃できるし」
「父上投げるの早いからいらないと思う」
ぼそりと、食事を口に詰め込みながらフィアが呟いた。
確かにその通りではある。槍を投げるので事足りているのであれば、
ただやはり同じものを使い続けていても現状を改善するようなことはできない。弓にこだわるわけではないが、何か違う戦闘手段を身に着けておきたいという思いはあった。
どうせ今考えたところで直ぐに思いつくというわけではないのだけれど。
新しい武器の事を考えるのは止めて、三人に構う。ハクは俺の背中に抱き着いたまま眠ってしまっているが、コクは眠そうな訳でもなく、フィアに至ってはまた外に行きたそうにしていた。
「そろそろ大規模な狩りでもする?」
「………餌がたくさんあった方が他の子たちも食べれる」
耳元から眠そうなハクの声が聞こえてきて思わず動きを止める。まだ眠っていなかったようだ。ハクが起きているとは思っていなかった。
「フィアはどう? 誰かと一緒だと動きにくい?」
「いや、父上なら大丈夫!」
フィアはまだ自分よりも身長が低いが、身体能力を比べたらどうかは分からない。最近は体が良く動くし、まだ自分の方が上だとは思うのだけれど。それもまた試してみたい所だ。
フィアはその明るい茶髪も相まって好青年ならぬ好少年だ。下半身だけ鱗になっている蛮族のような姿だが、それでもその爽やかさは健在。元が蜥蜴だからか動作が人間らしくないことはあるものの、それもフィアらしいような気がして自分は好きだった。
フィアと狩りにいくのであれば、何か連絡手段が欲しい。小さな笛か何かがあれば連携が取りやすいのだけれど、生憎笛なんて器用な物は作れない。呼びかけの声を決めて置くぐらいしか出来ることはないだろう。
今のところ何の事故もなく過ごせているが、ハクやコクに始まり、フィア、蛇三人衆、そして旧家の住民の皆など、気に掛ける家族が増えて来た。ハクとコクの二匹だけだったときは二匹とずっと一緒に居ればよかったのだが、この数になってしまうとずっと一緒にいることは出来ない。大切な人の数が増えるのが嫌というわけじゃないけどね。
なにか遠くからでも話せるような伝言手段があればいいのに。こういう時こそ魔法が使えればいいのだけれど。
今度何か試してみようと問題を棚上げして、最後の肉を口に放り込んだ。
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