第6話 諸々の検証

 最近フィアの成長が著しい。ただ、多くの大きな蜥蜴にあるような寸胴な姿ではなくて、未だに細身なのはどうしてなのだろうか。その方が格好いいとは思うものの、順当な成長なのかどうか不安な部分がある。

 まぁ、こんな急成長している時点で充当な成長なんてありえないけど。


あるじ、今日も狩り?」


 そしてコクがついにお父さんと呼んでくれなくなった。理由は分からない。それとなく聞いてみてもぼんやりとした返事が返ってくるだけだ。本当の親子という訳でもないため、父親という呼び方にこだわりがあったわけではないものの、呼び方が変わった当初は少し落ち込んだ。主と呼ばせせることに抵抗も若干ある。父親呼びもどうかとは思うけれどもが、主従関係でもないのに変な呼び方を植え付けるのはどうかと思ったためだ。

 あとこの呼び方も嫌いじゃないけどね。ちょっと気に入ってたりするけどね。


「いや、今日は家で過ごすつもりだよ」


 自分が狩りをしなくてもフィアが張り切って色々な獣を狩ってきてくれるため、無理に外に出る必要はない。

 実はどうもフィアには戦闘の才能があるらしく、自分の図体よりも大きな獲物を引き摺って帰って来ることが割とあった。最初に見かけたときには危ないから止めて欲しいと言い含めたのだが、次の狩りの時にどれだけ戦えるかを見せられ、そこからは観念していた。今では狩りの出発前に可能な限り周囲を警戒するよう頼み込んだ上で、彼が遠くまで出かけることに目を瞑っていた。

 心配は心配だ。ただ、フィアが張り切っていること止めるなどということは避けるべきだ。そう自分に言い聞かせて心配ながらもフィアを見送っている。若干その心配が必要かどうかは怪しいけどね。

 ………一見暴力的バイオレンスなんだけれど根は良い子なんです、彼。


「………何するの、お父さん」


 ハクは未だに父と呼んでくれている。別に強要している訳じゃないけどね。止めてないだけで。コクが呼び方を変えたあたりから父呼びをさせたままにしておくのも少し申し訳なくなって来たけど。


 まあ、ハクはそこまで深く気にしてないだろうね。

 こちらを見上げて来る彼女の脇を抱えて持ち上げ、そのまま立ち上がる。ハクは楽しそうに笑って歓声を上げた。


「鱗とか、魔法っぽいのとか、色々試せたらいいかな」


 実は身の回りで色々と意味の分からない現象が多発している。物が勝手に動いたり、火が勝手に付いたりと。自分の体に鱗が生えたり言葉を理解する蛇が後をついて来たりというのも十分不思議現象ではあるが、今回は魔法が使えるかどうかを試すという目的があった。もちろん、もし魔法が使える状態にあったとしても今日一日で直ぐに使用できるようなものではないことは知っている。だから単にできることを試してみるだけのつもりだ。

 鱗に関しても、出し入れ可能なことが最近判明したので少し試したいことがある。変に全身を鱗で覆って、自我を失って暴れ始めましたなどという事態になったら不味いので、検証するのは控えていた。流石にそのようなことはないとは思うが、石橋は叩いて渡るべきだろう。

 ということで今日は、こうした諸々の検証に充てたいと思っていた。


 家の中には蛇三人衆やらハクとコクがいるので、危ないことはしたくない。フィアが帰って来る出迎えもしたいし、家の外に出て色々と調べようと思っている。


 まずは鱗。これに関してはあまり調べることがない。意識すると鱗が全身から生えて来る程度だ。頑張れば部分的に生やすことも出来る。

 取り敢えず一度確認してみる。腕から背中に掛けて生えている鱗を、背中から下に広げて下半身を全て覆った。変な感触ではあるが、不思議と気持ち悪いわけではない。確かめてみるときちんと全てが鱗に覆われていた。今度は上半身にも伸ばして全身を覆う。


 頭が上手く行かなかったので良く確認してみたら、足の内側や腹などにも鱗が付いていなかった。肌は変質している。変化していなかったわけではなさそうだ。

 良く考えれば蛇も腹は鱗に覆われてない。ただ変化した結果が鱗ではなかっただけなのだろう。

 手触りで確認してみたところ、頭も腹の部分と同じような肌に変わっていた。肌の色は龍化するとより白くなるらしく、対照的に鱗はぼんやりとした黒みがかった青色だ。良く確かめてみると頭に角らしきものも生えていた。


 そしてもう一つ発見があった。目の構造が随分と変わったのだ。もともと龍の子になる過程で少なからず変化していたように思えていたのだが、この龍化した上での龍の眼は更に感覚が異なっていた。性能に関しては、あまり良くはない。ハクやコクの様子から何となく分かっていたが、爬虫類は目が良いわけではないらしい。特筆すべきは、温かい物やら冷たい物やらがはっきりと見分けられることだ。元々何となく感じていた熱の感知がはっきりして嬉しい。地面の下に隠れている虫やらが動いている様子までも見える。不思議な感覚ではあるものの、先ほどと同様に気持ち悪くはなかった。


 頑張れば下半身が蛇になることも分かった。手に鉤爪を生やすことも出来た。何が体の変質の基準なのか分からない。

 取り敢えずは危惧していたような暴走が起きなかったので一安心だった。流石にないだろうとは思いつつも、自分の身に起きている変化を思うと自我を失って───などということがないとは言えなかったからね。


 ということで次は魔法だ。此方に関してはどうすれば使えるのかが全く分からない。元々自分が住んでいたのは田舎だったので魔法を直接見たことあるわけでもなく、文献などで見たことがあるわけでもない。都会では魔法を使える凄い人がいるのだと教わったことがある程度だった。この程度の情報では何の役にも立たない。


 何度か不思議な現象を体験したので、全く魔法に経験がないわけではないものの、やはり知らないものではどうすれば良いかも分からない。


 ふと思い立って、目を蛇のものに変質させて自分の体を見てみた。想像通り熱で溢れているのは見えるのだが、少し揺らぎがある。これが他の獣と違うのかどうかは良く分からない。

 その状態のまま旧家に入り浸っている蛇と蜥蜴たちを眺めてみた。形は何となく分かるが、重なっていたりすると良く分からない。


 もう一度自分の体を見てみる。やはり少し違う。これが魔法の元になる力だったりするのだろうか。揺らいでいる手元の熱を集めてみる。


「熱っ」


 不意に手から炎が出た。なるほどね、こういうことなのね。

火傷しそうな手を振って誤魔化す。


 その後も色々と試してみた結果、炎の形を取らなくても熱の塊を放出することはできた。

 今は一番炎が使いやすいが、魔法というのは色々と種類があったはず。色々と試してみても面白い気がする。


 そして、また気づいたことなのだが、旧家の住民たちの熱も少し見分けることができた。自分の熱の揺らぎが若干違ったように、彼らの熱の集まり方もまた違う。動き方からして活発だったり、静かに凪いだような様子だったり。意外と面白いと思って見つめていたら、旧家で眠っていたらしいアーロが起き出してきた。


 見た目が変化したせいか、最初は訝し気だったが、撫でてやると誰かがわかったようで嬉しそうに舌を出し始めた。

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