第3話 家を作ってみる

 コクと出会ってから一週間、つまり家を出てからは二週間が経った。流石にハクの成長ぶりが看過できない程になって来て、小動物以外の狩りにも本腰を入れて取り組み始めている。一週間前にはできる訳がないと思っていたものの、人間一度本腰を入れると割と色々とできるらしい。今のところ狩は順調だった。

 狩りに使用する武器は基本的には木を削って作った槍だ。獲物は猪や鹿が中心で、今のところ命の危機に陥ったことはないものの全くもって危険がないわけではない。野生動物は普通に怖かった。


 ハクはもう人の背中に乗せられるほどの大きさではなく、一般的な人間の身長のほどの長さになっていた。コクもそれに対抗して良く食べるため少しずつ大きくなってきているが、まだ腕よりも少し長いぐらいだ。


 ハクは一人で鳥ぐらいだったら仕留められるようになっている。丸呑みしてしまうのでコクの分の食事が残らないのが難点だが、自分で自分の食事を賄えるようになってくれたのは正直とてもありがたい。コクも普通に虫とかだったら捕まえられるんだけどね。元は野生で生きてたわけだし。ただコクは虫よりも肉の方が好きらしい。

 しかし流石のコクはハクとは違うのか、与えられるだけでは腰が引ける、かつハクの方が色々と生育が順調なのが羨ましいようで、最近は少し落ち込み気味だ。コクも成長していないわけじゃないし、そこまで落ち込まなくても良いと思うのだけれど。


 と、ハクが口の端から何かしらの尻尾を覗かせながら戻って来た。


「ハク、今日の犠牲者のお味は?」


 口を開けて中身を見せようとするハクを制しつつ、口元が血で濡れているのを服の裾で拭う。綺麗になったハクは嬉しそうに鳴き声を上げた。最初は威嚇にしか使っていなかった鳴き声だが、最近は色々な場面で使っている。その程度しか意志を伝えられる手段がないからだろう。


 コクは今、足の上で目を閉じて眠っている。別に貧弱という訳ではないけれど、活発に体を動かすというよりは静かに眠っている方が性に合っているようだ。今もいつも通りということだね。


 何してるの? とでも言いたげな表情で、ハクが手元を覗き込んできた。

 自分は今近くで拾って来た木を拳大の石を使って削っている。


「武器の用意。投げられる槍があったら便利かなと思って」


 飛び道具として、または予備として使用できるようなもう一つの武器を作りたいと思っている。

 武器の材料としてはなるべく真っ直ぐで固い木を選ぶようにしていた。一日中森を歩き続けているので、割りと良さげなものが見つかる。今持ってる枝の木は、幹の表面が滑らかで、固いし持ちやすいしで結構気に入っていた。


 近くに落ちていた石で木を削る。大体でも尖った形にしていれば力技で相手の体に槍をねじ込むぐらいはできると思う。重さのある物を選べば尚更、その重みだけで随分と深く刺さるからね。目玉や首の柔らかい部分などに当たれば更に刺さるはず。


 削り終えて、持った感触を試してみる。まだ実際に使ってみた訳ではないのではっきりとしたことは言えないが、想像以上に手に馴染んだ。


 いつまでも木を削っただけの槍で狩りをするわけにもいかないので、いつかは石のやじり的なものを槍の先端に付けたいと思っている。ただどうすれば木の枝に尖った石を取り付けられるかもどうすれば形の良い石を得られるかも今のところ良く分からないので、実現にはもう少し時間が掛かりそうだ。

 今のところ食事を集めるだけで一日の結構の時間を食われているので、後で時間が出来たときに考えたい。そこまで事を急ぐ理由もないしね。






 ハクとコクを伴って歩く。最近では二匹とも地面を這って着いて来るようになった。最初はずっと自分の体に乗っていたはずなのに。これが親離れかと寂しい気分になった。一緒には居るのだけれど。


 ふと、遠くに獣が歩いているのが見えた。ハクとコクも同様に気がついたようで、姿勢を低くして舌を動かしている。

 気配を消して、なるべく静かに近づいていった。どうやら獲物巣の近くで周囲を見張っているらしい。といっても随分と警戒心は薄いらしく同じ場所を歩き回るばかりで暇そうだった。


 槍が届きそうな距離になったので、思い切って投げてみる。空を切った槍は、真っ直ぐな木を選んで作ったことが幸いしてか、直線的に進んで行く。投げられた魔物は気づいた様子もなく、次の瞬間には腹を貫かれていた。何が起こったのか分からずに混乱しているように見える。

 自身の窮状にも関わらず目を丸くしているのが少し面白かった。


 体勢を崩した鹿へと近付いて、持っていた二本目の槍で突き刺す。痛みで身を捩るのに必死で近づいて来ているこちらにも気づいていなかったのか、最期まで逃げる様子はなかった。

 と、巣の中からもう一匹が飛び出してくる。その後ろ脚にハクが噛み付いた。ハクが攻撃される前に、目を狙って槍を突き刺す。予備で三本目を持ってきておいてよかった。獣は地面に崩れ落ちて、そのまま痙攣して動かなくなる。


 巣らしき場所の中を確認すると、獣の子供らしき生物が眠っていた。それをハクが噛みちぎって、小さくしてコクに渡す。

 ハクとコクは野生動物らしくとてもワイルドに口の周りを血で濡らして楽しそうにしていた。少々凄惨ではあるが自然としては何も不思議ではないことなのだろう。

 人間にしても実の子供を殺そうとする個体もいるんだし、こんなこと考えても無駄か。自分も生き物を殺して食べてることには変わりないしね。


 狩りの結果は悪くはない。何せ二匹も仕留められると思っていなかった。………ありがたいことにはありがたいものの、腐敗する前に食べ切れるかどうかは微妙なところだ。近くに拠点でも設けた方が良いかもしれない。そうすれば、頑張って処理して干し肉にするぐらいは出来るだろう。


 思い立ったが吉日。近くに都合のいい場所がないか探して、崖のような場所に辿り着いた。斜めに迫り出して来ている訳でもないので、崩れて来る心配はなさそうだ。洞穴はなさそうだったので、持っている槍の柄の部分で地面に穴を掘って隠れ家のようにする。

 身体能力が上がっているからかどうかは分からないが、穴を掘る速度は想像以上に速かった。


 ハクに周囲の警戒をしてもらいつつ、長めの枝を集めて来る。自分の身長よりも少し高いくらいの木だ。これもなるべく真っ直ぐなものを選ぶようにした。最近は扱いやすい木の枝を見つけるのが得意になった気がする。


 持ってきた木を穴の上を塞ぐように崖に立てかけて行く。最初は上手く行かなかったが、地面に突き刺すように立てかけると上手く行くことが分かった。石か何かを拾ってきて刺した木を抑えるぐらいはして置いた方が良さそうだ。


 即席で作った木の屋根の上に、木の葉やら小枝やら屋根になりそうなものを乗せて行く。


 悩んだ末に、結局石で木を支えることにして、抱えるほどの石を幾つか調達。崖の近くだったと言うことで割と簡単に見つかった。ありがたい。


 そんなこんなで、何となく家のようなものが完成。狩りにしろ何にしろ、人間思い立ってみれば何とかなるものらしい。


 外ではしゃぐが好きなハクはともかく、コクは非常に嬉しそうにしていた。その様子を見れただけで取り敢えずは満足だった。


 干し肉の作り方は良く分からなかったが、首筋の太い血管を割いて血を大体抜いたから直ぐに腐るようなことはないと思いたい。いくつかは細く割いて、入り口の近くの風が抜けそうなところに置いておいた。


 色々と、上手く行くと信じたい事ばかりだ。

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