第49話
「あれ?未央音ちゃんは?」
「未央音なら教務室に課題の提出行ったぞ?」
頬杖をつき、窓の外を眺めていると六炉が辺りを見渡しながら声を掛けて来た。
「ははっ、どうりで退屈そうな顔してる訳だ」
「誰がだよ、朝から不貞腐れた顔ばっかり見てたから精々するっつの」
「またまた、思ってもない事を」
「……うるせ」
まるで俺の本心でも見透かしていると言わんばかりに六炉は苦笑いを浮かべながら前の席に座った。
「それで?喧嘩の原因は?」
「……それは」
◇ ◇ ◇
時は朝まで遡り、冷迩は喧嘩に発展した出来事を思い出していた。
「ご飯なんて……二人分作るのも…三人分作るのも……一緒だから……気にしないで?」
「…そ、そうか?……そんなに言うならお願いしてもいいか?」
「うん……いいよ?……後…れーじのお家のお洗濯も…しなきゃだね?」
「い、いいよそれは」
「だって……この前……れーじのお母さんに……してもらったし」
「それは今日俺の飯まで世話になるし…それでいいだろ?」
「……む…どうしてそんなに……遠慮するの?」
逐一断ろうとする冷迩の言葉に違和感を抱いたのか未央音は腰に手を当てると片方の頬を膨らませていた。
「遠慮っていうか……そもそも未央音には毎朝弁当を作って貰ってるし……」
「それは…私が好きでやってる事だし……れーじが気にする事じゃない…」
「気にしない訳ないだろ、普段から家の家事に朝苦手なのに俺の弁当作ったり……そう言うの見てたら未央音の負担になりたくないって思うのは当然だろ?」
気にするなと言う未央音の言葉に対して冷迩も段々と声のトーンが上がって行った。
「私は…れーじの事……負担なんて思った事……一度も思った事……ない」
「そんな事分かってるよ…」
「…だったらどうして……そんな事言うの?」
不満そうな顔で未央音は続ける……
「でもだからってずっと甘えてられる訳ないだろ?」
「……どうして?……れーじだって……いつも私が甘えるの……許してくれるのに…」
「いや…そんなの俺にとって負担でもなんでもないし…」
むしろ癒しに近い訳だが?
「…じゃあ……れーじも…一緒でしょ?」
「それとこれとは話しが違うだろ?」
「…む……一緒…でしょ」
「どうしてそんなに頑固なんだよお前は!!」
「…頑固なのは……れーじでしょ…!!」
美味しそうな朝食を囲み……二人の言い争いは次第に白熱して行った。
◇ ◇ ◇
「……って言う……な?………ってうーわ……なんだその俺に対して憎悪しか抱いてないみたいな顔は」
「大正解だよ!!なんだよそのアホみたいに羨ましい悩みは!!全国の可愛い幼なじみが欲しい男子に変わって呪い殺してやろうか!!」
天を仰ぎながら朝の事を思い出す冷迩に、六炉は涙を流しながら机の中からワラ人形と釘とハンマーを取り出した。
「…なんだそれお前、そんなの常備してんのかやべぇな」
二人がくだらないやりとりをしていると教室の扉が音を立てて空いた。
ぎゅっ
「…れーじ……ただいま……えへへ」
空いた扉から未央音が入って来るとまるで離れていた時間を埋めるかのように一直線に冷迩に抱き付いてその腹部に満面の笑みで頬擦りしていた。
「……………………」
喧嘩中にも関わらず、いつものように抱き付いて来る未央音に冷迩は思考が停止したのかその場で固まっていた。
「あ、あれ?未央音ちゃん?冷迩と喧嘩してたんじゃなかったっけ……」
「…………あ…」
そんな冷迩に変わって六炉が最もな指摘をすると未央音は小さな声をあげて冷迩から離れると……
「……そう…だった……忘れてた」
と一言呟いてぷいっと再び冷迩から視線を反らした。
「そんな事ある!?冷迩もなんとか言ったら!?」
「……るせっ、指摘しちゃいけないルールなんだよ」
「だからなんなんだよそのルールは!?もう仲直りしたら!!?」
ルールその三、時々いつもの癖で抱き付いてしまう事があるがその場合は無かった事にする事、指摘した場合は勿論喧嘩に負ける。
可憐な小動物 衣織 @tsukimiso
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