第46話
「……あれ…消しゴムがない」
あの後、未央音との喧嘩を継続したまま授業に入り、俺は誤字を修正する為に筆入れの中の消しゴムを探していた。
ビスッ
「…い"っ!?」
すると突然脇腹に衝撃が走り、思わず自分の口から出た一言が静かな教室に響き渡った。
教師以外の声が教室中に響いた事により、クラスメイトの視線が一気に自分の方に向いた。
「ん?なんだ風魅、どうかしたのか?」
「い、いえ、すみません、何でもないです」
「………………」
教師の言葉に応えつつ、ちらりと衝撃がした方に視線を向けると………
「……ぷふっ………ふふふ」
未央音が何やら顔を隠して隣で震えているようだった。
「…………………」
………こいつ。
ふと足元を見ると小さな消しゴムが自分の足元に転がっていた。
まぁ大方、俺が消しゴム無いのに気付いて貸してくれたんだろうけど……多分俺の脇腹を目掛けて机の上からデコピンで飛ばしたんだろう……普通に渡せばいいものを……
「…こほん」
冷迩はわざとらしく咳払いをすると何食わぬ顔で消しゴムを拾い上げ、誤字を消した。
「……ふっ……ふふふ」
再び隣を見ると俺が授業中に奇声を上げたのが余程面白かったのか未央音は机に突っ伏して笑いを堪えている様子だった。
随分と楽しそうじゃないか。
その様子を見て、俺の仕返し魂にも完全に火が付き、気付けばシャーペンを片手に持っていた。
突っ伏している未央音の脇腹に目掛けてシャーペンのノック部分がゆっくりと近付いていく。
「……ひゃんっ!!?」
脇腹にそれが触れた瞬間、未央音はくすぐったさと驚きにより思わず声を上げて立ち上がった。
それにより、先程の冷迩の時と同様にクラスメイトの視線が未央音に向いた。
「……ブフッ……くくく」
予想以上の反応を見せる未央音に今度は冷迩が机に突っ伏す番だった。
「…………………」
それと同時に突き刺すような視線を隣から感じた。
「恋氷路!?き、急に立ち上がってどうしたんだ?」
「…ごめん…なさい……なんでも…ないです」
「そ、そうか?まぁ立ったついでだ、この問題解いてくれ」
「…分かり……ました」
未央音はあくまで平静を保っているつもりだったのだろうが、クラス中の視線が向いた事もあり、顔を真っ赤にしたまま黒板の方に向かって歩いて行った。
「よし、出来てるな、戻っていいぞ」
「………はい」
俺が視線を泳がせていると、問題を解いて戻って来た未央音がじろりとこっちを見て舌を出した。
非常に可愛………いや、憎たらしい。
俺も負けじと下まぶたに指を置いてそのまま下げた。
「……れーじ……消しゴム」
「ん?あぁ、ありがとな……随分可愛い声が出てたな」
「………む」
ルールその二、喧嘩しているとは言えお互いに困っている時は形はどうあれ助け合う事になっている、当然助けられたらお礼を言う事…助けなかった場合もお礼を言わなかった場合も、それは喧嘩の敗北を意味する。
バチっ
「痛っ!?」
「…どういたし……まして」
まるで電気が走ったような衝撃に未央音の方を見ると、にやにやと笑いながら消しゴムを持つ手とは違う手で筆箱に付いていたもふもふの二つのキーホルダーのようなものをゆらゆらと見せつける様に揺らしていた。
このやろう、いつの間に静電気を…
「(こいつら喧嘩の仕方可愛いかよ!!)」
後ろの席でこの一部始終を見ていた六炉は一葉やファンクラブの気持ちが少しだけ理解出来たような気がしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます