第44話

「あれ、志乃っちって二人が喧嘩してるの見た事なかったっけ?」



「……そう言えば見た事ないかもしれないでござるな」



「何気に志乃っちってしょっちゅう修行とか遊びに行ったりしてるしね………喧嘩してる時はいつも手繋いでるんだよね、あの二人」



「い、意味が分からないでござるよ」



「ね、俺もそう思う、丁度こっち来てるみたいだし二人に直接聞いてみたら?」



「そうでござるか?」



「六炉、志乃、おはよう」



志乃が六炉の言葉に首を傾げていると、冷迩が手を繋いだまま二人に声を掛けた。



「お、おう、おはよう冷迩…未央音ちゃんも」



「………おはよ」



「おはようでござる、お二人は今喧嘩してるんでござるか?」



「志乃っち!?それはいくらなんでも直球過ぎじゃない!!?」



「喧嘩?……俺達ふぁ?」



「…喧嘩なんて……してふぁいよ?」



「ほら、やっぱりこの二人が喧嘩なんてする訳ないでござるよ!!」



「いやいやほっぺつねり合ってるじゃん」



六炉は左右に手をブンブンと振り、空いている方の手でお互いの頬をつねっている二人を指差していた。



「あれっ?二人とも何してるんでござるか?」



「いやこれはちょっと未央音のほっぺが美味そうだからちょっと食べて見ようと思ってさ」



「……れーじの……ほっぺは…不味そう」



「あっはっは、未央音さん?だったらそろそろ離してくれませんかね?」



「…不味そうなのは……見た目だけで…食べたらおいしいかも……でしょ?」



「そんな無理して食べる事はないんだぞー?」



笑顔の裏に静かな怒りを見せる冷迩と、ムスッとした顔で冷迩の頬をつねり続けている未央音……



二人の間には確かに六炉の言う通り、バチバチと電気が走っているようだった。



「あっははは、志乃っち…これでもまだ二人が喧嘩してないって言える?」




「た、確かに何やら不穏な空気を感じるでござるが……だったら何で二人は手を繋いで……」



「ん?あぁ、これか?俺達の喧嘩にはいくつかルールがあるんだよ」



冷迩は繋いでいる手を上げると志乃の疑問に答えた。



「ルール……でござるか?」



「……私達……喧嘩してる時は…手を繋いでないと……いけない…から」



「というかもう喧嘩してる事は認めるんでござるね、それで……どうして手を繋がないといけないんでござるか?」




「……ルール…だから?」



「い、いまいち話しが見えないのでござる……仮に離すとどうなるんでござるか?」



「え?喧嘩に負ける」



「なんなのでござるかそれは……」



俺達は喧嘩する際、いくつか守るべきルールを定めている、これは普段から二人でルール決めを行い、二人の了承があった際に喧嘩した場合に正式にルールとして適用される。




喧嘩ルールその一、喧嘩をしてる際は授業中や必要な時以外は出来るだけ手を繋いでいないといけない、尚先に離した方は負けを認めて謝る事。



基本的にルールを破った方は負けを認め、先に謝る事になっている。




「俺も前々から思ってるけどなんなんだよそのルールは!!さっさと仲直りすればいいじゃん!!」



「仲直り?そうだな、未央音が意地張るのを止めたら今すぐにも仲直りできるんじゃないか?」



「……れーじ…もしかして……寝てるの?」



「寝言じゃねぇわ」



「…ぷぷ……起きてるのに…寝言言えるなんて……器用だね?」



「ほぉん?」



「ちょっ、二人共落ち着いて」

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