第37話
それはそうだ、確かに普通の幼なじみに比べたら俺達はずっと距離が近いと思う……
でも、そんな俺達ですら頬に……スキンシップと言う名目でもキスをするなんて事は今まで一度だってなかった……
「……うぅ……顔から……火が…出そう」
いつも人前でも平気で抱き付いてくる未央音も、頬にキスとなると流石に少し恥ずかしいらしい。
「ま、まぁ……事故だし…な?」
かく言う俺もさっきから心臓が小刻みに大きな音を立てて鼓動しているのを抑えられずにいた。
お互いにこのなんとも言えぬ恥ずかしさと言うか胸の高鳴りの前では話す事は愚か、まともに顔を見る事すら出来そうにない。
背中合わせで冷迩は頬を、未央音は口元を抑えながらお互いの鼓動だけが響く放課後の教室で心臓の音が収まるのを待った。
◇ ◇ ◇
「…よし、未央音…そろそろ落ち着いたか?」
「………ん」
お互いに、ゆっくりと相手の方へ振り返る……
まだ火照りが残されている頬を見て、思わず自分の顔を覆いたくなる……自分の頬は赤くなっていないだろうか……?
「……れーじ……あんまり…見ないで?」
「…わ、悪い」
未央音はどうやらまだ俺の表情を見る事が出来ないのか、それにホッとしたのも束の間、その言葉を聞いて、再び自分の中に流れる血が身体中を早く巡っていくのが分かった。
「それで……さ?……写真…どうする?」
この状況を打開する為、先程に比べると大分落ち着いて来たのか、今度はすんなりと言葉が出て来た。
「…な、何ならさっきの写真コンテストに出して…」
「……だめっ…」
勿論この場を和ませる為の冗談のつもりだったのだが、わりと食い気味に不採用の達しが来た。
「……恥ずかしいから……だめ…他の人には…絶対……見せられない」
「お、おう、だよな」
冗談にしても今この状況で言うのはちょっとミステイクだったか。
でも、コンテストの締め切りが近いのも事実、今日中にはどんな写真を撮るか決めないとコンテスト事態に応募する事が出来なくなってしまう。
「それじゃあどうする?」
「……やっぱり……いつもと…同じ……れーじと…楽しく…写真が撮りたい……」
「未央音!……でも、いいのか?今回はいつもと違う写真がいいんじゃ……」
「……ん…大丈夫……だよ?」
その時、未央音も漸く落ち着きを取り戻したのか、口元をスマホで隠し、何やら嬉しそうに笑っている様子だった。
「…そう……なのか?」
「……ん……もう…撮れた…から…いつもと……違う写真」
「……え?」
急に小さくなる未央音の言葉を聞き取る事が出来なかったのか、冷迩は目を丸くして首を傾げていた。
「……んーん…何でも……ない……れーじ…こっち来て?」
「ん?あぁ」
「……私の…真似……してね?」
「……え?………ブハッ………真似って…それをか?」
「ん……そうだよ?……れーじも……やるの…」
ははは、どうやら一位は諦めた方が良さそうだな。
「でも二人でやるならタイマーにしないとじゃないか?」
「あ……そうだね」
未央音はカメラのタイマーを設定すると鞄から筆箱を取り出し、スマホを立て掛けた。
「……おっけぃ」
「………よし」
パシャッ
二人が並び、ポーズを取っているとスマホがフラッシュを焚いてシャッターが切られた。
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