第33話
「…はぁ、後で六炉に声を掛けてみますわ」
俺達二人の言葉が少なからず一葉に届いたのか、観念したようにため息をついていた。
「それにしても……よりによって冷迩さんにあんな事を言われてしまうなんて……なんだか癪ですわね」
「…な、なんだよそれ、どういう意味だよ?」
「…いいえ……ただその視野の広さが…もう少し自分の足元にも向かないかなと思っただけですわ…」
「…足元に?」
「……え、えと……ひぃ…そう言えば」
「……未央?…いいんですの?」
「………!……………」
一葉の言葉を遮ろうとする未央音の言葉を、更に一葉の言葉が間髪入れずに遮った。
「……うん…もう少し…だけ……もう少しだけ…このまま」
「……………………」
自分の着いて行けない会話に……思わず口が塞がる……
だが二人の表情を見るとただならぬ様子だと言う事だけは分かる。
そう言えばこの間未央音は一葉に電話をしてもいいかと聞いていた気がする……一葉に何か相談事でもしているんだろうか?
「……そう……分かりましたわ…大丈夫、私は未央を信じてますもの…」
「……うん…ひぃ…ありがと」
「それで、あなた達はわざわざ何で私の事を尾行していたんですの?何か用事でもあったんじゃありませんの?」
「あ、あぁ……一葉に写真のアドバイスを貰おうと思ってな」
「……ん…ひぃの写真……とっても綺麗だったから」
「そうでしたの?まぁ、私もそこまで精通している訳ではありませんが誉められると悪い気はしませんわね」
未央音の一言に気を良くしたのか、一葉は腰に手を当て、分かりやすく鼻を高くしていた。
「やっぱりあれか?日の光とか意識した方がいい写真が撮れたりするのか?」
「……構図とか……考えた方が…いい?」
「ず、随分本格的に撮ろうとしてますわね、確かにその二つも綺麗に写真を撮る上で必要な事だとは思いますけれど……」
「まずお二人は専門的な知識を意識するより初心に帰って写真を撮ってみて下さい」
「……しょしん?」
「何で急にオヤジキャグ言おうと思った?」
「初心と写真を掛けた訳じゃありませんわ!!……全く人がせっかくいい事を言おうとしてましたのに」
いい事言おうとしてたのかよ、悪かったな。
「お二人は写真はどんな時に撮る物だと思います?」
「ん?何だ?人の弱味とか握る時か?」
「冷迩さんもしかして六炉ですの?」
えっ、何アホって事?凄い言い回しだな、ちょっとジワる。
「……やっぱり……思い出とか…残す…時?」
「そうですわね、やっぱり写真と言えばその時の楽しかった一瞬を残したいからこそ撮るものだと私もそう思いますわ」
「だからこそ、まず第一に楽しんで撮って下さい、どんな綺麗な写真もやっぱりそこには人の笑顔があってこそ、人が心から楽しんでいる姿は何にも勝りますわ」
どうやらいい事を言おうとしていたと言うのは嘘ではなかったらしく、六炉かと聞かれてしまう程くだらない茶々を入れていた自分の言葉を恥ずかしいと思える程には一葉の言葉は説得力があった。
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