第32話

「……それで…ひぃは誰を追いかけてたの?」



「………!?……そ、それは」



「見て見た方が早そうだな」



「…だ、駄目ですわ!!」



グサッ



「……痛っ!?」



視線を一葉の後ろに向けると、身体を縦に一回転させ、遠心力の乗った手刀が俺の襟足に突き刺さった。



「……っつー……いきなり何すんだお前は」



グサッて言ったぞ今……血出てない?コレ。



「……あれ?ろっくー?」



「ちょっ!未央!!」



その隙を見て一葉の後方を確認する未央音の視線の先にはクラスメイトと談笑している六炉の姿があった。



「ん?六炉の事を見てたのか?メッセージ来てただろ、あいつお前の事ずっと捜してたぞ?」



「……わ、分かってますわよ、そんな事……」



「だったら何でこんな所でこそこそしてんだよ?」



「……それは…」



「……ろっくーと……お話ししなくていいの?」



未央音は俺の背中から降りると、壁づたいで座り込む一葉に、しゃがみこんで首を傾げてそう言った。



「……未央はいいですわね…いつも冷迩さんと一緒に居られて…」



「……ま、まさか…ひぃ……れーじの事」



ぎゅっ



「…ち、違います!違いますわ!!私が冷迩さんと一緒に居たいと言う訳ではなく…むしろいつも未央を独り占めしている冷迩さんには憎しみの感情しか湧かないので大丈夫ですわ!!」



「おい」



一言余計じゃね?何が大丈夫なの?こんな身近な人間に憎まれてるとかそこそこショックなんだが?



「……うん…分かってる……ひぃはろっくーと一緒に……居たいんだよね?」



「……ち、違っ…別にそう言う訳では…」



「…………………」



恐らく、未央音の言い分は当たっているんだと思う、『一緒に居たいならそうすればいい』と簡単に言えない位にはきっと一葉は六炉に対して複雑な感情を抱いているんだろう……



「六炉がさ……お前と一緒に写真撮りたいって言ってたぞ?」



「……!!……六炉が?」



「…あぁ」



今日一葉の写真のフォルダを見た中に志乃や未央音と一緒に写る写真はあったものの、その中に六炉の写真や二人で写っている写真は一枚もなかった。



同じ幼なじみとして、少し寂しいと思ってしまった自分が居た、二人は決して仲が悪い訳ではないのに……



「一葉が六炉に何を思ってるのかは良く分からないし、追及するつもりはないけどさ……自分の心に従うのが結局一番なんじゃないか?」




素直になれないと言うのなら勿論それでもいいと思う…



「六炉と一緒に写真撮りたくない訳じゃないんだよな?」



でも本心が違うと言うなら一歩踏み出す勇気も必要だと思った。



「……冷迩さん」



「不安なら…着いていく?」



ぎゅっ



少しだけ不安そうな表情を見せる一葉の腕を抱き、未央音は心配そうにそう言った。




「…未央……いいえ、その言葉だけで十分ですわ」



「…全く……いつからこんなに素直になるのが難しくなってしまったんでしょうかね…」



「まぁ、あいつ茶化して来るしな」



「間違いありませんわね」



そんな事もうとっくに知っていると言わんばかりの呆れとため息を混ぜたように笑う一葉。



その言葉を聞いて一葉が素直になれない理由には六炉にも少なからず原因があるんだとそう思った。






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