第30話

「おう仲良しお二人さん♪一葉見なかった?」



「ひぃ?……見てないよ?」



「隣のクラスに居ないのか?」



一旦写真の事は忘れ、休み時間に二人で塗り絵をしていると六炉が辺りを見渡しながら声を掛けて来た。



「うーん、何か写真コンテストの話ししてから避けられてるような気がしてさー、二人は何してんの?塗り絵?」




「……れーじ……ここ貰い♪」



「あっ、俺が先に塗ろうとしてたのに」



「何?勝負なの?」



「六炉もやるか?」



「私は少し……休憩するね?」



「え?やるって今二人がやってた事?普通の塗り絵じゃないの?俺ルール分かんないんだけど……」



「いや、未央音が抜けるみたいだしもう少しスリリングなゲームにするか」



「スリリングなゲーム?」



「その名も生爪剥がしゲーム」



「……わー…」



「待って?そんな和やかな気持ちで到底始められないゲーム名が飛び出して来たんだけど」



「ルールは簡単だ、俺が六炉の爪を剥がすから六炉は最後まで悲鳴を上げなかったら勝ちな?」



「クソゲーにも程がある……」



「…面白そう」



「未央音ちゃん!?」



「準備はいいか?よし!やろう!!」



「ちょちょちょ、何躊躇なく右手掴んでんの!?」



「大丈夫だ、お前の事だからどうせ出血しないだろ?」



「どういう理屈!?普通にするわ!!」



「仮に出血したとしても塗り絵に使うから大丈夫だ」



「発想が狂人すぎる!」



「因みに負けたら心臓な?」



「闇の一族か!!」



と……からかうのもこの辺にしてそろそろ本題に入るとするか。



「それで?六炉はどうして一葉を捜してるんだ?」



「急に本題に戻るの怖っ!?」



「いや…コンテストの写真さ、どうせだったら一葉と一緒に撮りたいなーって思ってて」



「………………」



目を泳がせ、頬を人差し指でぽりぽりと掻いていると未央音は何を思ったのか六炉の横に立ち、ぽんと肩の上に手を置くとゆっくりと左右に首を振った。



「え?何これは?」



良く分からないけど励ましているような、応援しているような、哀れんでいるようなそんな複雑な念のようなものを送っているような気がする。



「メッセージは送ったのか?」



「いや、ほらそれはなんと言うか多分気付いていないと言いますか……最悪無視されてると言いますか……まぁ、既読スルーされてると言うか……ね?」



「………………」



長い幼なじみの期間を経て『そんな事』には慣れてしまっているのか、悲しい心情を吐露しつつも六炉は特に気にしていない様子だった。



一葉はやけに六炉にツンツンしているイメージがある……でもそれはきっと六炉の事が嫌いと言う訳ではないんだと思う……六炉と接している時の一葉からは何処か気恥ずかしさや、複雑な思いを感じるような気がする。



「……ろっくー」



「…ん?」



「諦めちゃ……駄目…ひぃ……きっと喜ぶと…思うから」



「…未央音?」



「…未央音ちゃん」



一葉の親友である未央音の方が、もしかしたら俺なんかよりもずっと一葉の気持ちを良く分かってるのかもな。



「もし……見つけたら…ろっく~が捜してたって……伝えておくね?」



「うん、分かった、ありがとう、俺ももう少し捜してみるよ」



その言葉を素直に受け取った六炉は未央音に笑みを見せて頷いた。



「あ、そうだ未央音ちゃん、裁判の最後で一葉に何言われてたの?」



「ん?そう言えばそうだな、スマホを見せられてたみたいだけど何を見てたんだ?」



「………ぁ…それは………」



「未央音ちゃん?」



「どうしたんだよ?」



「……うぅ……ろっく~…余計な事……思い出す…から」



「俺何かした!?」



何かちらちらと未央音の方から俺の顔色を伺うような視線を感じる……



ぎゅっ



「…だめ!……ないしょ…」



俺達二人の追及も虚しく、最後は俺に抱き付いて誤魔化している未央音だった。

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