第29話

「志乃?お前こんなとこで何やってんだ?」



あの後クラスメイトの目撃情報をたどり、志乃を追跡していると俺達はいつの間にか校舎の外にまで足を運んでいた。



「何って勿論被写体探しでござるよ、そんな事も分からないんでござるか?全く冷迩殿は知能が低いでござるなぁ、そんなんだから私に裁判で負けるんでござるよ……負け犬は負け犬らしくとっとと私の被写体探しを手伝うでござるよ、この負け犬無能検事」



「あはは、面白いなこいつめっ、高い高ーい」



「わ、分かったでござる冷迩殿……今のは流石に言い過ぎたでござる!!ごめんなさいでござる!!」



まるでコンタクトレンズを探すかのように地面を這っている志乃に声を掛けると俺に対する挑戦と見受けられる発言を確認したので今は志乃の頭を片手で掴み、宙に浮かせている所だ。



「おいおい志乃、俺がその位で怒る訳ないだろ?」



キュッ



「痛だだだだだだだ!!お、怒ってる!!怒ってる威力でござるよ!!」




「…れ、れーじ……落ち着いて?」



「…あ、俺とした事がこんな安っぽい挑発に乗ってしまうとは……」



「……み、未央音殿、助かったでござるよ………うぅ、冷迩殿時々私が女子って事忘れてないでござるか?こめかみに穴が空くと思ったでござる」



ん?正直開けば良かったと思ったでござる(笑)



「それで?かなり怪しい動きしてたけど志乃は何を探してたんだ?」



「ケッ…何で私が冷迩殿なんかに教えてやんねーと行けねーんでござるかシッシッでござるよ」



なんでだろう、こいつの相手してると右手が疼いてくるのは……



「……しぃ…教えて?」



「……未央音……し、仕方ないでござるなぁ」



まるで鶴の一声を聞いたかの様に志乃はだらしなく顔を歪ませていた。



「…実は私は今いい感じの石を探していて」



「いい感じの…石」



「未央音殿と冷迩殿は小さい時に形のいい石を探したり取っておいたりしなかったでござるか?」




「そうだな、持って帰ったりはしなかったけど志乃の言いたい事はなんとなく分かるな」




「うん……私もキラキラした…石とか……れーじと探した事……あったかも」



「私の里はあまり娯楽と呼べる物もなく、小さい時はずっとそんな事をして時間を潰していた事もあったのでござる」



「じゃあ志乃はそのいい感じの石を写真に収めてコンテストに出すつもりなのか?」



「人からして見れば大した事がないかもしれないでござるが私にとっては良き思い出でござるよ」



足元に落ちている石を人差し指と親指で掴み、太陽に翳す志乃、正直コンテストで一個の石を写した写真が選ばれるというのは結構シュールな光景に思えるが、石を見つめる志乃の表情には何処か童心のようなものを感じるような気がした。



「…まぁ、正直未央音殿のちょっとえっちな写真が撮りたかった所でござるが……コンテストで未央音殿のあられもない姿が他の男子共に見られるのは癪なのでやめておくでござる…」



おい、ちょっといい話しだと思ったのに、そう言う煩悩は心の内に秘めておくものだと、こいつはいつになったら学ぶのだろうか。



「…しぃ?……女の子なんだから…あんまり…そんな事ばっかり言ってちゃ……駄目だよ?」



「…うぐっ…善処するでござるよ」



純粋な未央音の言葉が刺さったのか志乃は胸を抑えていた。



「それで未央音殿と冷迩殿は何を撮るか決まったでござるか?」



「…二人で……撮ろうと思ってるけど…一応参考に…皆は何撮るのかなって……思って」



「そう言うことでござるか……私も普段写真を撮る事はないので正直に言ってあまり力になれそうにはないでござるなぁ」



「……気にしないで?……どっちがいい写真撮れるか……勝負だよ?……しぃ」



「おぉっ!!望む所でござるよ!!」



そもそもランキング入りするかも分からないが、わざわざそんな事を言うのも無粋な気がしたので二人を前に俺は言葉を飲み込んでいた。

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