第23話

ガシッ



「私が隣で寝てるとどうして六炉が死ぬのか、詳しい理由を教えて欲しいですわね」



「……ろっくー……さよなら」



六炉の首根っこを、闇のオーラを纏いながら掴む人物を見た未央音の口からその後の未来を予知したかのように早すぎる別れを告げた。



「…え……ひ、一葉さん?」



「……ふふふ」



◇ ◇ ◇



「……………………」チーン



「こんにちはーでござるぅっ!ってうぉっ!?六炉殿?」



俺と未央音が地面に附している六炉に手を合わせているという異様なタイミングで志乃が教室へとやって来た。



「どうしたでござるか!?」



「六炉なら今地面とキスの練習をしている所だから邪魔しないでやってくれ…」



「…へぇー……へへっ…きしょいでござるなぁ」



修行を終え、煩悩どころか人の心まで忘れたのか志乃は悪戯な笑みを浮かべ、口に手を当て、スマホで倒れる六炉の顔を撮影していた。



六炉に視線を戻すとダイイングメッセージを残そうとしているのか手元には『一葉が……』と血文字で書かれていた。



「……………………」



「一葉?どうした?」



友達の罪が公になることを恐れた俺は足でそのダイイングメッセージをさりげなく消し、撮影している所を何やら言いたげな様子で見ている一葉に声を掛けた。



「ひでぇ!!ってか志乃っちいつまで撮ってんの!?」



「んっひっひ……男の情けない姿を見てるとなんだかわくわくするでござるなぁ」



「……………………」



「……ひぃ?……どうしたの?」



俺の言葉に返答がない事を疑問に思ったのか未央音も続けて一葉に声を掛けた。



「…え?……あぁ、いえ…なんでもありませんわ、それより今日も未央の写真を撮らせて頂いてもよろしいかしら?」



「…ん……別に…いいけど…ひぃって私の写真しか……撮らないの?」



「別に未央だけって訳では……気になるなら見てみます?」



「……いいの?」



「えぇ、勿論」



「へぇ、それはちょっと気になるな、俺も見ていいか?」



「構いませんわ」



一葉は愛想よく笑うと、未央音にスマホを渡した。



「………あ……ねこ…かわい」



「成る程な、ちゃんと風景とか建物とかもフォルダに入ってるんだな」



顔を寄せ、未央音と共に保存された写真をスワイプして見て行くと、猫を撫でる光景だったり、夕陽の景色…その他にも構図や光の位置などを意識してると感じさせる綺麗な写真が次々と画面に写し出されていた。



俺はてっきり未央音の写真ばかり保存されてるものだと思っていたものだから普通に所謂映える写真ばかり出て来てある意味拍子抜けしていた。



「み、見たいと言っていたわりに冷迩さんはなんかつまらなそうですわね」



「あぁ、一葉の事だからとんでもない爆弾写真でも出て来るかと思って期待してた」



「ギクッ……そ、そそそそそんな訳ないでしょう!?もう冷迩さんは冗談がお上手ですわね全く」



「………………」



ギクッて今口で言ったぞコイツ…



「……ん?……M.R?……ひぃ…このふぉるだ……何……」




「…あっ!?未央!それは!!」



一葉の静止は既に遅く、未央音の小さな手によってそのフォルダは開かれた。



「……………………」



まぁ、M.Rって普通に考えて未央音の事なんだろうな、自分じゃ気付かないもんだな……



「……私の写真……」



「…わ、私は未央の親友でファンクラブの会長ですのよ?こ、これ位未央の写真を持ってても不思議じゃないでしょう?」



「お前どんだけ未央音の事好きなんだよ」



「なっ!?こんな小っこくて可愛くて優しくて魅力的な女の子がいるのに冷静で居られる冷迩さんの方がどうかしてますわ!?」



「……ちっこい……そんなに?」



「冷静なんて簡単に言ってくれたな、こちとら毎日血が滲む思いで平静さ装ってんだぞ」



「……血が滲む程……むむ、そんな風には見えませんが」



「お前達とはくぐって来た修羅場の数と経験値の量が違うんだよ」



「……………………」



俺達の会話をよそに未央音は一葉のスマホをひたすら操作して写真を見ている様子だった。




「本当に……私の写真…ばっかり」



「当然ですわね!!なんたってそれは未央フォルダなんですから」



胸を張って言える事なのかそれは。



「…でも……この写真……私が…いいよって…言ってない時に……撮られた写真も……入ってる……ね?」



「うっ!!そ、それは…」



おやおや、一気に雲行きが怪しくなって来たぞ。



「…そうなのか?」



「…あ……だめ………これ……ちょっと…れーじが見ちゃいけない…写真も……混ざってる…から…」



「!?」



普段あんな無防備な格好で布団に潜り込んでくる未央音が俺に見せられない写真!?

一体どれだけ過激な内容なんだ……



「……ひぃ……これは少し……お話ししないと……だね?」



「……み、未央」



流石の未央音も許容出来ないと思ったのか、背後に威嚇する猫のようなオーラを纏い、それでもいつもの可憐な仕草で一葉の裾を少し掴んでいた。

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