第19話

「はぁ、ごめんな家の母さんが無理やり……後俺もごめん!本当悪かった!」



「…少し…恥ずかしかったけど……全然…怒ってないよ?……れーじは何も悪くないから…気にしないで?」



天使ですかこの子は……



「それに……れーじのお母さん……私の家の洗濯物まで……してくれたみたいで…」



「…え?母さんが?」



「……うん…私が帰って来る前に……一回来てくれたって……未来が…言ってた」



その話しを聞いて、反射的に脱衣かごに目を向けると、未央音がこれから着るであろう着替えと下着が綺麗に畳まれ………



「………!!?」



冷迩はそこまで確認すると一瞬で目を反らし、さらに一瞬でその脱衣かごにバスタオルを掛けた。



よし、俺は見てない何も見てない。



いや、訂正、正直下着は目に写った、そのままポケットに仕舞えと言う本日何度目かの登場になるクソ邪な心を裏拳で屠り、冷静さを取り戻す事に心血を注ぐ。



未央音の裸に関しては湯気で全然見えなかったし、セーフ……じゃないな、やっぱり風呂場の扉を開けた時点でアウトか。



「……れーじ?」



「……!!?……ど、どうした未央音!?」



「…こっちの……台詞…大丈夫?」



「あ、当たり前だろ!至って冷静沈着!いつものクールな冷迩だぞ」



何言ってんだコイツ、落ち着けよ!取り乱し過ぎだろ!!



「……ふふっ……なにそれ」



「と、とりあえず俺は出て行くからゆっくり入っててくれ」



「……あ……れーじ……少し待って?」



寄りかかっていた風呂場の扉を通して、自分の背中にトンと小さな衝撃が走る……



「……み、未央音?」



「……少しこのまま……れーじとお話ししたい……だめ?」



視線を自分の背中の方に向けると、磨りガラス越しに輪郭のボヤけた未央音の小さな肩が見えた、どうやら未央音も俺と同じように扉を背にしているらしい。



薄い扉を通して、未央音の体温が自分の背中にも伝わってくる……シャワーを止めたのか、風呂場には未央音の小さい声が反響していた。



ポチャン



「……!……あぁ、いいぞ」



静かな空間の中で水滴の落ちる音が鮮明に聞こえて来ると漸く我に帰った冷迩は未央音の問いにそう答えた。



「…………………」



「…………………」



返事をしたものの、未央音からの返事はなく俺達二人にしては珍しく辺り一面に気まずい空気が流れる。



何か話しを振った方がいいんだろうか?

でも先程話しを聞くと返事をしたばかりだし……いや、もしかしたら聞こえてなかったんだろうか?

いや、こんな静かな空間で聞こえないなんて事は…



「……あのね?……れーじ」



「ん?あぁ……どうした?ちゃんと聞いてるぞ?」



様々な考えを巡らせていると漸く扉の向こうから未央音の声が聞こえて来た。



「……私ね……目標が……出来たの」



いつも通りの未央音の声……しかしその声からは不安や、緊張を織り混ぜたようないつも未央音の声より少しトーンが下がっているような様子が伝わって来たような気がした。

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