第17話

六炉達と別れた後、俺は未央音を待つ為に再び教室に戻り、オレンジ色に染まって行く窓の外を自分の席に座って眺めていた。



「…………………」



遠くで鳴いているカラスの声が窓を締め切っているにも関わらずぼんやりと自分の耳まで響く……



自分の教室で未央音を待つ、ただそれだけの時間の筈なのに何処か落ち着かないような、そわそわしている自分が居る気がする。



「……未央音はまだかな」



始業中の喧騒を忘れた教室の中で一人呟いたその一言が寂しげな教室の中に木霊した。



ぎゅっ



「……呼んだ?」



「うわっ!?」



突然首の辺りに腕が伸びて来て、自分の肩を抱き締めるのは不思議そうな顔で自分を見つめている未央音だった。



「…れーじ……ただいま…」



「おう、お帰り、今日は未央音に驚かされてばっかりだな」



その腕から、身体から、確かに伝わる未央音の高い体温は誰も居ない教室の寂しさや、それによって感じる冷たさを一気に温めるようだった。



「…待たせて……ごめんね?」



小首を傾げながら俺の表情を伺うのは未央音のいつも通りの表情で、その顔を見た瞬間胸の辺りに安堵感を抱いたような気がした。



「気にすんな」



「………れーじ……優しい……ふにふに…」



冷迩の一声に気をよくしたのか未央音は柔らかい笑顔を浮かべ、冷迩にすりすりとすり寄った。



「…ちょおぉっ!?未央音!?」



「…ん?……れーじ…優しい?………れーじ…野菜?」



「いや、野菜ではない」



セルフ睡眠術かな?



「用事はもういいのか?」



「……うん……もう…大丈夫…だよ」



何か思い詰めている様子の未央音……告白を断るのは仕方のない事なんだと思う……それでもやっぱりいい気はしないもんな……



「…帰ろうぜ?」



「……れーじ………うん…帰ろ?…」



冷迩が笑顔で問いかけると、未央音もつられて笑顔を見せ、小さく頷いた。



◇ ◇ ◇




「れーじと…一緒にご飯……嬉しい」



「言う程か?……ちょくちょく一緒に食べてるだろ?」



未央音と一緒に朝と同じ道を家に向かって歩く。



「それよりどうする?このまま一緒に家に行くか?」



「……一回帰って…着替えてから…また行くね?」



「ん?そうか、未来にも声掛けてな?」



「…うん……未来も…喜ぶと思う」



ぎゅっ



「……なんなら今日……こっそりお泊まりして……こっそりれーじに……抱き付いてれば…朝まで…ばれずに…一緒にれーじと…居られるかも…」



「おい、口に出てるぞ」



後俺はどんだけ鈍感だと思われてるんだ。



未央音にしては浅はか過ぎるその作戦に自然と口角が上がって行くのが分かる。



いつでも自由に抱き付いて来て、ファンクラブが出来る程人気者で料理だって得意な未央音は幼なじみとして今日も俺の隣に居る。



そんな未央音を一言で称するんだとしたら、まぁさしずめ『可憐な小動物』って所だろうか?



「……ははっ」



未央音にぴったりな言葉が思い浮かび、気づくと俺は吹き出していた。



「……ん?…どうしたの?」



「…いや、なんでもないよ…」



「……気になる…教えて?……なんで笑ったの?」



「内緒だ内緒、ほら早く行かないと母さん待ちくたびれるぞ?」



「……む……じゃあ……おんぶ」



「……うわっ…と、いきなり飛び付いて来たら危ないだろ」



沈んで行く夕陽を背に俺達は家に向かって歩いて行くのだった。

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