第16話
「ちょっ、冷迩待てって」
「シッ、始まりますわよ!」
「お、おい、引っ張るなよ」
立ち上がろうとして六炉に腕を掴まれると、その勢いで未央音達に再び目線が向く、すると男子生徒は漸く勇気が出たのかゆっくりと重たい口を開いた。
「恋氷路さん、急に呼び出して……その…ごめん」
「でも……俺、恋氷路さんにどうしても伝えたい事があって!」
「…………………」
再び間が空き、二人の間に沈黙が訪れる……未央音は無言でその後に続く男子生徒の言葉を待っているようだった。
「俺、ずっと前から恋氷路さんの事が気になってて、もし良かったら、俺と……付き合ってくれないかな?」
「………………」
未央音の答えは恐らくもう既に決まっている……
今未央音が無言を貫いているのは、ただ一言でその気持ちを一蹴する事が出来ない位には男子生徒が真剣な表情をしているからだろう……
「……ごめん…なさい……私は…あなたとお付き合いする事は……出来ません」
予想通りの言葉を男子生徒にはっきりと伝える未央音……
でもそれでいいと思った、いくらその男子生徒の告白が真剣なもので、長い間培って来たのだとしても、未央音がその思いに応えられないのなら、今度はちゃんと返事をして、相手を諦めさせてやるのもきっと優しさなんだと思う。
「もういいだろ……俺は先に行くぞ?」
「…冷迩さん」
「あっ、おい……冷迩」
結果はどうあれ勇気のある、男らしい告白だと思った……好きだった奴にフラれればきっとショックだろうから……その表情まで盗み見るのは素直に胸が痛むと…そう思った。
「私には今………好きな人が…いるから」
「…………え?……」
透き通る未央音の声が一直線に自分の背中に突き刺さる……
これまでも、今のように六炉や一葉に捕まり、未央音が告白される場面に遭遇する事があった……
これまでの未央音は、告白をただ断るだけで今未央音が言っていた事は俺自身も初めて聞いた。
その瞬間……肺の中の空気が一瞬だけ全て抜けてしまったような、心臓がキュッと縮んでしまったような言葉に出来ない感覚と感情に見舞われたような気がした。
未央音に好きな人?
今まで未央音は……そんな事一度だって……
「なぁ、冷迩……お前さ、未央音ちゃんが告白されてるの見て、本当に平気なの?」
「………え…?」
混乱する頭に六炉が疑問を投げ掛けると……俺の口から出たのはまるで空気の抜けた時に一緒に出るようなその一文字だけだった。
「今……未央音ちゃん告白断ってたけどさ、今もし未央音ちゃんが付き合うって言ったら……冷迩はどうしてた?」
眩しい夕陽に相反して、植木の影は濃くなっていく……その影に隠れた六炉と一葉がどんな表情で俺の答えを待っていたのか……俺には分からなかった。
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