第13話
「ごちそうさまでした」
「……ん、お粗末様…でした」
少しでも感謝が伝わればいいと思い、心を込めてそう言うと、未央音は小さく頷いて弁当箱を手際よく片付けた。
「…俺も幼なじみのお弁当が食べてみたいなぁ…なぁ…なぁ」
悲壮感漂うセルフエコーを響かせながら六炉は隣に居る一葉を横目で見ていた。
「な、なんですの?その頭蓋骨を優しく握り潰して欲しそうな目は…」
「頭蓋骨を優しく握り潰して欲しそうな目!?」
幼なじみから発せられる言葉としては些か猟奇的過ぎる台詞だったのか、六炉は驚いた様子で同じ言葉を復唱していた。
「ろっくー……お弁当の……作り方…教えようか?」
「違うんだよ!!自分で作った弁当なんて意味ないじゃん!?女の子が作ったお弁当がいいじゃん!?女の子が苦手ながらもそれでも努力して味はちょっと自信ないんだけどそれでも良かったらって苦笑い浮かべながら差し出してくれるお弁当がいいんじゃん!!」
男子の願いを一身に背負ったような、それでいて愚かな心の叫びが教室に霧散する。
その声に同調するかのように、教室に居る数人の男子生徒が力強く頷いていた。
「………………」
……なんだコイツら。
こういう男子の気色の悪い一体感を目の当たりにすると、志乃が男子に対して少なからず嫌悪感を抱いてしまうのも納得が行く気がする。
「れーじも……そうした方が…いい?」
「いや、未央音は普通でいいんだぞ」
「……ん…リクエストあったら……言ってね?」
ぎゅっ
その言葉に他意は感じないものの、未央音に男子はそう言う生き物なんだとひとくくりにされているようで、この状況を生み出した六炉に静かな殺意が湧く。
「ほら一葉、多分この要求に答えられるのはお前しか居ないぞ?」
「な、ど、どうして私が六炉なんかの為に…」
この混沌とした状況を打破出来るのだとしたらやはりそれは六炉の幼なじみである一葉が一番適任なんだと思う、此所で一葉が二つ返事で六炉の要求を飲めば自体は一気に沈静化出来ると、そう思った。
「わ、分かりましたわ、今度……!…今度万が一にも気が向いたら…作ってあげますわ!!」
「…ひぃ……素直じゃ…ないね」
「み、未央!何を笑ってますの!!?」
「……ふにゃあー…」
一葉が柔らかそうな未央音の頬を掴んで伸ばしている光景はまるで和菓子職人が餅を伸ばしているように見えた。
「良かったな万が一にも作って貰える可能性が残ってて」
「…まさか一葉がそんな事言ってくれるなんて……もしかして夢!?」
「………………………」
スッパアァァァァァァァァァンッッッ
「いぃっっっっっっっったあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」
「良かったな、夢じゃないみたいだぞ」
「ちょっと待って!?お前今俺の頬にショットガン撃たなかった!?何で人の頬目掛けてショットガン撃ったの!?ねぇ!って言うかどういう思考回路してたら人の頬にショットガン撃とうって気になるの!?馬鹿にも分かるように一文字で説明してくれる!?」
「草」
「笑ってんじゃねぇよ!!」
自分の掌を見ると煙が上がっていた、六炉の言う通りどうやら俺の平手打ちは散弾銃に匹敵するらしい。
「いや、だって夢とか言うから確認させてやろうと思ってさ」
「確認する為なら人の頬にショットガン撃ってもいいと思ってんの!!?」
結論から言うとショットガンは撃ってないけども。
「全く何を騒いでますの?他の皆さんの迷惑になりますわよ?」
「……しょっとがん……ふむ…ふむ」
「未央音?」
その言葉を呟きながら『お弁当のめにゅーのーと』なるものに何かを書き出すのはやめてもらえるか?弁当箱を開けた瞬間米粒が散弾銃の如く顔にふっ飛んで来るのは流石にゴメンだぞ?
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