第24幕 信念

 デュランダル号に戻ると、準備が完了したのか周囲は静かなものだった。俺はコンバーチブルをハッチから船内に乗り入れるとエンジンを切り、コックピットに向かった。

 コックピットに入るとアキラがリクライニングを目一杯倒してくつろいでいた。


「どうでした?王子様のお加減は?」


 アキラが早速話しかけてきた。俺はシートに座って足元にある冷蔵庫から清涼飲料水を取り出すと喉を潤した。


「サラはどこ行ったんだ?デイビッド王子は意識が戻っていたよ。ベッドから起き上がることは出来なかったが意識もはっきりしていた。」


 アキラは俺の説明に〝ウンウン〟を頷くと俺の質問に答えた。


「サラは部屋にいるよ。準備が終わった後シャワー浴びてくるって。」


 ちょうどそのタイミングでサラがコックピットに入ってきた。バスタオルで濡れた髪を拭きながら操縦席に座り聞いてきた。


「ザック、レイラは元気だった?」


「ああデイビッド王子の意識が戻って安心したようだった。」


「そう。それは良かった。で、これからの事、聞かせてくれる?」


 俺は清涼飲料水で再度喉を潤しながら頭の中を整理すると俺の考えを話し始めた。


「まずスペンサーに逃げられないように倉庫を急襲する。と言ってもあくまで逃げられないための急襲、いきなり攻撃を仕掛ける考えはない。」


「先手必勝、その機会をわざわざ手放すの?」


「サラ、それは『何故スペンサーを暗殺しないの?』という質問かい?」


「いえ!…そうとは言わないけど…」


「サラ、俺はサラを責めてるわけじゃない。俺はそれぞれに理由は立つつもりではいるが、沢山の人間をあやめてきた。だからこそ自分の行動には目的と手順を大事にしたいんだ。そうでないと時々自分が殺戮マシーンなんじゃないかと思える時がある。」


 サラとアキラを見ると二人は真剣な面持ちで俺の話を聞いてくれていた。


「俺はスペンサーと直に話をして、レイラの暗殺を思い止まらせたい、レイラへのリスクを排除したい。イングヴェイ王の勅命は当然スペンサーの耳にも届いているはずだ。であればもうこの国で思い通りのことなどできないのだと気付いているはずだ。」


アキラが聞いてきた。

 

「ザック、楽観的過ぎない?そんなに簡単にスペンサーが承服するとは思えない。」


 俺は当然返ってくると思っていた質問に答えた。


「俺も簡単だとは思ってないさ。でもスペンサーにレイラ暗殺を諦めさせない限り、レイラにはずっと命の危険が伴う。俺たちはこの先もずっとレイラを警護し続けられるのか?えっ、アキラ?」


 アキラは首を横に振った。だが代わってサラが質問してきた。


「イングヴェイ王の信頼を失ったスペンサーが仕返しにあなたの命を狙っているということはないの?私たちが倉庫にくるのを実は待ち構えていているとか。」


「その可能性は大いにある。だがそうだとしてここで逃げてどうなる?今後ずっとスペンサーの追手を気にしながら生きなきゃならない…結局、話を着けるしかないんだよ。」


 俺の言葉を否定する事ができず二人は黙り込んだ。俺は〝パンパン〟と手を叩いた。


「おいおいしょげてる場合じゃないだろう。俺はむざむざ殺されに行こうって言ってんじゃないぜ。向こうがこちらの要請に応じず、力づくで俺たちを阻止しようってんなら受けて立ってやろうじゃないか!」


 二人の面構えが変わった。アキラが確認してきた。


「スペンサーが攻撃してきたら、反撃していいんだね?」


 俺はアキラに親指を立てながら答えた。


「もちろんだ。俺たちが本気になったらどれだけ怖いか教えてやる。」


「ザック、私はPSを使うわ。反対はしないわよね。」


 俺はサラの申し出に一瞬躊躇した。PSを装着したサラの攻撃力は凄まじく、郊外とはいえその攻撃力を解放していいものかを考えた。だが既に権利を剥奪されたとはいえ、この国の権力の中枢に食い込んでいたスペンサーがどんな準備をして俺たちを待ち構えているか分からない。であれば最大の戦力をもってあたるべきだと思われた。


 「いいだろう。ただし、こちらから仕掛けるなよ。それと不要の殺生は禁じる。」


 サラは無表情のまま頷くと言った。


 「できるだけの努力はするわ。でもねザック、私、悪人の命を奪うことに躊躇はしないから。」


 「分かった…じゃあ聞いてくれ…」


 俺は具体的な作戦を二人に説明し始めた。


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