第25幕 急襲

作戦は静かに始まった。夜陰に乗じて俺はストライダーで音もなく倉庫の敷地内に降り立った。アキラによる事前のハッキングで、王立第一ギルドの倉庫には軍隊の基地並みの装備がある事がわかっていた。主だったものでも、地対空ミサイルや対空機銃、更に地下の車庫には何かしらの地上用の兵器が隠されているらしい事も察知していた。俺たちの最初の標的は施設内の供給電源を断つことだ。俺が敷地内に電気を引き込む受電施設を破壊し、同時刻にサラが予備電源を破壊。充電式の武器以外は使用できなくなるはずだった。

 広大な敷地内の角にある受電設備の前には銃を持った歩哨が二人張り付いていた。サラと打ち合わせた時刻まであと5分。俺は歩哨の動きを読んで建物に近づくと、先に鉤爪のついたローブを5mほど高さのある建物の上に放り投げた。幸運にも一回目で鉤爪は屋上の何処かに引っかかった。俺は数度ロープを引っ張り、体重をかけても大丈夫な事を確認するとロープを伝って屋上によじ登った。登り終わりロープを引き上げた瞬間、角から歩哨が現れた。俺は「フーッ」を小さく息を吐いた。建物の内部はアキラのハッキングで大体分かっていた。メインの受電室は高圧受電であることから人はいないはずだった。俺はその部屋の真上を見定めると背中に背負ったバックパックから時限式の爆弾を取り出した。これはアキラが開発したもので、床や壁などに取り付けて爆発させると一方向だけに威力が集中して床や壁を壊し、その内部を破壊するといった仕組みになっていた。瞬間で固まる特殊な接着剤で爆弾を固定すると俺はブレスレット型の端末を確認して爆破時刻をセットした。その時だった、投光器の強烈なライトが目を焼き、視界を奪った。俺は反射的に屋上の縁に向かって走り出した。〝パンパン〟と俺の後を銃弾が追ってくる。俺はそのまま暗闇に身を投げた。〝グッ〟受け身は取ったが流石に5mの高さからの落下だ。身体への衝撃は激しく、息が詰まった。それでも俺は跳ね起きた。


「そこまでだザック!」


 投光器が再び俺を照らすのと同時に、周囲で銃を構える音がして俺は動きを止めた。俺を呼び止めた声の主が暗闇から現れた、スペンサー卿だった。俺は両手をあげるとスペンサー卿に正対した。


「待てスペンサー。俺はあんたと戦うためにここに来た訳じゃない。あんたと話がしたくてここに来たのだ。」


「命乞いかい?見苦しいね。この国が豊かなのは私が裏で指導しているからだ。私がいなければこの国は滅ぶ。必ずや元の地位に返り咲いてみせる。それには君が邪魔でね。死んでもらうよ。」


「思い上がりも甚だしい。」

 

 そう言いながら俺はブレスレットに目を向けた、時間だ。〝ドーン!〟という轟音と共に地面が揺れ、背後の受電設備から煙が上がる。続けて少し離れたところからと思われる爆発音が聞こえた。俺が駆け出すと同時に投光器の光が消える。「ダーン、ダーン」と暗闇の中、闇雲に発砲する者がいたが〝撃つな味方に当たる!〟とスペンサーの声がすると銃声は止んだ。走りながら周囲を見渡すと施設内の照明が次々と消えていた。状況からサラも予備電源施設の破壊に成功したに違いない。俺は走りながらブレスレット型端末に指示を出した。


「アキラ、フェーズワン完了。フェーズツーに移行する。」


「了解!」


 アキラから空かさずの返答が返る。その時だった、施設内の一部に照明が灯った。


「ザック、他にも予備の電源があったみたい。」


 サラからの報告に俺は応える。


「多分充電式の電源だろう。施設全体の電力はカバーできないはずだ。フェーズツーに変更なし。駐車場の真ん中で落ち合うぞ。」


「分かったわ。」「了解!」


 二人からの返答を確認し、俺は広大な駐車場の真ん中を目指して走る速度を上げた。すると空から轟音が聞こえ始めた。聞き慣れたデュランダル号のエンジン音だ。低く垂れ込めた雲を突き破って、その漆黒の機体が降下してくる。その時だった、施設内の地表4箇所から何かが空に打ち出された。その打ち出された物は白く光る光跡を残しながらデュランダル号に向かっていく。携帯式の対空ミサイルだ。と同時にデュランダル号の上部から迎撃ミサイル群が撃ち出された。上方に射出されたミサイル群は広がりながら直ぐに下方に向きを変え、近づく4本の対空ミサイルに殺到した。4つの対空ミサイルはほぼ同時に迎撃ミサイルの餌食となった。

 デュランダル号が着地するのとほぼ同時に、俺はデュランダル号の前に到達し、走るのを止めた。サラも肩で大きく息をしながら直ぐに現れた。デュランダル号の上部2箇所から、小型の補足•追尾レーダーを搭載した20㎜多銃身機銃が迫り出した。


「アキラ、俺の声を外部スピーカーに。」


「了解。」


 俺はブレスレットに向けて話し出した。その声はデュランダル号の外部スピーカーに繋がれ、辺りに大音量で流れた。


「スペンサー卿、俺はここに戦いに来たわけではない。話合いに来たのだ。自慢じゃないがこのデュランダル号が本気を出せば、この敷地内の物全てを跡形もなく消し去る事も出来る。もう一度言う、スペンサー卿、直接話をさせてくれ。」


 数秒間様子を伺ったが状況に変化は見られなかった。俺はサラに目配せした。サラは頷くとデュランダル号が着地する為に伸ばしたスキッドに向かって足早に移動すると、その横に設置されたタラップから船内に消えた。その時だった、〝キュルキュル〟というキャタピラーが軋む音が折り重なって響いてきた。デュランダル号のサーチライトが音源を探して周囲を彷徨ったの後、三つの蠢く鉄の塊を照らして動きを止めた。

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