第15幕 地上戦

 デストロイヤーは二門の砲身を持つ戦車だ。二つの砲身がそれぞれ砲塔の真横についており、前方の敵に対して集中的に攻撃を加えることもできるし、前後の敵を同時に攻撃する事も可能だった。着地したデストロイヤーに駆け寄ると俺はよじ登ってハッチを開けて中に滑り込んだ。インカムを外し、戦車用のヘッドホンを装着する。すぐにサラからの声がした。


「ザック、デストロイヤーの操作なら私の方が倍は上手よ。代わろうか?」


 俺はシートベルトを締め、発進シークエンスを行いながら答えた。


「倍は失礼だろ、がサラの方がうまいことは認めた上で今はレイラの側にいてレイラを守って欲しい。」


「やけに素直じゃない。わかったわ、任せて。」


「アキラ、聞こえるか?」


「よく聞こえてる。」


「情報のリンク頼む。」


「オッケー、送るよ。」


 コクピットのサイドモニターが反応し、敵の位置情報が送られてきた。戦車が矢尻のように三角形を形成している、突撃隊形だ。その時だった、モニターの光点が動き出した。


「ザック、戦車3台移動開始。固まって突っ込んでくる!」


 その時だった〝ズンッ〟と腹に響く振動を感じた。続いて何かが崩れ落ちる音がした。先手を打たれた事で俺は頭に血が上るのを感じていた。


「アキラ対戦車ミサイル攻撃で援護!」


「ラジャー」


 そう指示すると俺もサイドモニターの光点を頼りにメインモニターで照準作業に取り掛かった。外から連続音が響く、アキラが発射した援護のミサイルが着弾しているようだ。モニターに赤外線レイヤーを被せる。三台の戦車らしい影が浮かび上がった。俺は発射ボタンを叩き押した。デストロイヤーの100㎜滑空砲が咆哮し〝ズン〟という振動が体に響く。数秒後、大きな振動を感じた。


「ザック、第一射命中。敵先頭車両大破…ん?ザック標的ロスト!」


 アキラの無線に反応するかのようにメインモニターがホワイトアウトした。


「煙幕だ、野郎あぶり出してやる!ロストした辺りに向けて対地ミサイル、5秒ごと断続的に25斉射!」


「ラジャー」


 アキラが即答する。俺は照準も兼ねる外部メインモニターから赤外線レイヤーを外すと解像度を上げて待ち構えた。再び前方で飛翔音の後に連続する破裂音が響き始めた。…10…20…その時だった。煙幕の中からたまらず一台の戦車が飛び出てきた。


「もらった!」


 俺は主砲の発射ボタンを押した。砲弾発射の振動が伝わる。砲弾は見事に戦車に命中した。一拍置いて砲塔が車体から吹っ飛んだ。すかさずアキラの声が飛んできた。


「ビンゴ!戦車撃破!それからもう一台も先程の対地ミサイル斉射で大破。これで戦車は黙らせた。」


「アキラ、戦闘員の動きは?」


「東面と西面に展開した部隊が前進を始めた模様。正面の南面の部隊は戦車がやられたことで動揺している。」


 それを裏付けるように屋上に送った監視員からの無線が入った。


「ザック、こちら屋上。現在東面から敵部隊の接近が確認できます。匍匐前進しながら近づいてきます。」


「こちらザック、了解した。反対側、西面からも接近しているという情報がある、確認頼む。」


「了解…ウッ」


「どうした?おい屋上、応答しろ。屋上!」


 返事がない。屋上の監視員に何かが起こった。


「サラ!聞こえるか?」


「こちらサラ、聞こえてるわ。」


「屋上で何かあった、空からの監視ではまだ外部からの侵入は確認されていない。狙撃の可能性もある、注意しながら確認してくれないか。」


「ラジャー!」


「アキラ、俺は東面のサブエントランスに回る。引き続き上空から敵側の動きを教えてくれ。」


「ラジャー!」


 俺はデストロイヤーのアクセルを思い切り吹かし、頭を東面のある方向に向け急発進した。東面のエントランスに着くと既に激しい銃撃戦が始まっていた。こちらの警護側は拳銃とサブマシンガンという小火器だが敵方は二人がかりで運用する中機関銃で攻撃を加えているようだった。俺は東面のエントランス前にデストロイヤーを突っ込ませると敵に向かってデストロイヤーの砲塔中央に設置されている機関銃で応射した。さすがに戦闘員の前進は止まったように見受けられた。その時アキラの声がヘッドホンに飛び込んだ。


「アキラ!西面が押されてる、サポートに行ける?」


 俺は威嚇も込めて東面に展開する敵に向かって主砲を向けると、砲身を水平に向けて二発斉射を行なった。モニター越しに怯んだ敵勢力が後退する気配が感じ取れた。俺はアクセルを目一杯踏み込み、右に急速回頭してデストロイヤーを西面に向けた。その時アラームがけたたましく鳴った、後方からの攻撃だ。俺はデストロイヤーを左に急転し回避行動をとった。〝ドゴーン〟という強い衝撃が車体を襲った、が直撃は避けられたようだ。俺はそのまま180度回頭しながらオートで平面制圧用の榴弾を主砲にセットし攻撃された方向に主砲の狙いを定めた。


「命のやり取りだ、恨みっこなしだぜ…」


 俺はそれだけ言うと発射のボタンを叩き押した。榴弾は半円を描きながら敵が攻撃してきたと思われる場所に落下し、上空5m程で炸裂した。爆風と破片で爆心から半径25m以内にいた敵はもうこの世にはいないはずだ。俺は再度デストロイヤーを西に向けると移動を開始した。

 西面のエントランスに前では近接しての銃撃戦が繰り広げられていた。既に榴弾を使用するには味方が近すぎる。俺は機関銃で相手の右側面から機銃掃射を浴びせた。敵の注意がこちらに向くのがわかった。俺は威嚇も込めて通常弾を主砲に装填すると続けて二発斉射した。やはり戦車が生身の自分達に発砲してくるのは相当の恐怖らしく敵勢力が後退するのが感じられた。その時だった、サラから緊迫した様子で無線が入った。


「ザック、屋上の監視員、二人とも死亡しているけど狙撃じゃない?刃物で頸動脈を切られてる!ホテル内部に敵がいる!」


「なに!サラ、直ぐにレイラの元へレイラが危ない!」


「ハッ」


 サラが息を呑む気配を残して無線を切った。〝ヤバい〟俺もデストロイヤーを西側エントランス横に着けると、ハッチを開けてデストロイヤーの上に出た。相手に鹵獲ろかくされないようロックをかけると近くの窓に向けてデストロイヤーの上から体ごと飛び込んだ。転がり起きると俺は2階にある食堂を目指して走り出した。頬に痛みを感じ触ると血が付いた。割れた窓ガラスで切ったのだろう、だが今はそれを気にしている場合ではなかった。食堂の前までくるとドアのところでサラが固まっていた。サラの横まで来て部屋の中を覗き込むとサラが固まっている理由が分かった。そこには首筋にナイフを突きつけられているレイラがいた。時々刃先が触れるのか薄らと血が流れているように見える。


「動くな!部屋の中に一歩でも入ってみろ、レイラを刺し殺す。俺は本気だ!」


 そう言ってレイラを人質にして叫んでいる男はレイラの母国から彼女を護衛するために付き従ってきたはずのナカムラだった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る