第14幕 迎撃態勢
ホテルに入るとすぐに俺はホテルの支配人を呼びつけた。しばらくすると背の高い、いかにも紳士然とした男性が〝自分が支配人だ〟と申し出た。俺は襲撃に備えた準備をしながら言葉をかけた。
「支配人、今すぐすべての従業員を連れてこの建物から退去してしてください。」
支配人はその言葉に動揺したようだったがすぐに冷静さを取り戻すと応えた。
「そのような事はできません。我々はさる高貴な方からレイラ様に最上級のもてなしをするよう特に申し付かっております。」
俺は準備の手を止めて支配人を見た。
「支配人、俺たちはレイラをここに連れてくる道中で既に何者かの襲撃を受けている。多分、双方に死傷者が出ている。」
支配人は息を飲むのが分かった、俺は続けた。
「明日の婚約の儀にレイラを出席させたくない者がいるとすれば、もう時間がない。今晩、これからでも再度の襲撃が行われる可能性…低くないと俺は見ている。」
「しかし…しかし私たちもプロです。我が国の王族に加わられるレイラ様への歓待はこのホテルの
「バカヤロウ!」
俺は支配人の声を遮った。
「
「しかし…」
俺はフォルスターからS&Mを抜くと静かに支配人に向けた。支配人の口から〝ヒッ〟と悲鳴が漏れた。
「〝デアデビルズのザックに銃で脅された〟と言えばスペンサー卿にも通用する言い訳だと思うがどうです?」
支配人は一瞬考えた後〝ガバッ〟と一礼すると部屋を出ていこうとした。俺は依頼を一つ思い出して支配人を呼び止めた。
「支配人、退去前にこの建物の各階見取り図を見せていただきたい。それと打ち合わせができるような部屋はないですか?」
支配人はザックの依頼を聞くと即答した。
「二階に食堂があります。そこでなら一行の全員が入って打ち合わせが可能です。各階の見取り図はそこにお持ちしておきます。そして…食堂には既に皆様の夕食が揃えてあります。スタッフが心を込めて作った料理です。できれば一口だけでも…」
「ありがとう。時間がない、従業員に退去命令を。」
俺は再度支配人の言葉を遮って指示した。サラがエントランスから出ていく支配人を目だけで見送って言った。
「…銃を突きつけるのはやり過ぎよザック。あれじゃあんたの優しさ、伝わらないよ…」
「仕方ないだろう!彼らの命を守るためには一秒でも早く退去が必要だ!」
「まぁいいよ…本当のあんたを…理解しているのは…私とアキラ…」
サラがまだ何か言っていたが聞き返している時間は無かった、俺は次の指示を出した。
「サラ、準備が出来たなら全員に二階の食堂に集まるよう指示して回ってくれ。」
「…イエッサー!」
サラが指示を伝えるべく歩き始めた。
二階の食堂に入ると様々な料理からする香りが鼻腔をくすぐった。既に食堂には警護のほとんどのメンバーが集まっていた。食卓について用意された食事に手を付けている者もいたが俺が入った来たので手を止めていた。
「続けてくれて結構。ホテル側が一生懸命作った食事だそうだ、ありがたく食べながら話を聞いてくれ。」
俺はテーブルの上に置かれた見取り図を見つけると、フロアの中央まで持っていって床に広げた。それから一旦テーブルに戻りパンとスープを手に取ると、広げた見取り図の前に戻り座り込んだ。俺はパンをスープに浸して口に運びながら、見取り図にざっと目を通し始めた。とりあえず胃を満たした何人かのメンバーが俺の周りに集まってきた。ホテルは上から見ると長方形の構造で北側は海に面していた。入口は南側のメインエントランスと、他に東側と西側にサブエントランスが配置され、襲撃する側としてはその入口三ヶ所以外からの突入は不可能だと思われた。
まず手始めに俺は屋上に二名の監視員を配置するよう指示し、無線と暗視ゴーグルを持たせて上がらせた。そして残りのメンバーを四つの班に分け、三つの班にそれぞれ三か所のエントランスに分かれて守備するよう指示した。加えてそれぞれのエントランスでバリケードを作り、一つの班の三分の二はエントランス周辺の窓から、残りの三分の一はエントランスの真上に位置する2階に移動して襲撃者を狙い撃つよう指示した。また俺からの連絡がない限り他のエントランスで銃撃戦が始まっても動かないよう言い含めた。そして残りの1班は状況に応じてそれぞれの班のサポートにまわるよう指示した。俺の号令一下、護衛達は一斉に食堂を出て配置場所に向かった。
食堂には俺とレイラとサラが残っていた。俺はサラに頷いた。サラも頷きを返した。俺たちにはそれで十分だった。レイラの護衛をサラに任せて俺は防御の指揮を執るべく1階に向かって食堂を出た。俺はインカムを装着するとアキラを呼んだ。
「アキラ、何か動きはあるか?」
「今のところ各種センサーに異常確認されず。ところでザック、ホテルが襲撃を受けた場合、デュランダル号の攻撃目標はあくまで戦闘車両などに限られるの?」
俺は少し考えた後に返答した。
「いや相手もプロの殺し屋を雇っての本気の攻撃だ。防御のフェーズを上げるのも致し方ない。ホテルを明らかに襲撃している人員に対してはデュランダル号からの攻撃を許す。ただアキラ、絶対にやりすぎるな。牽制も含めた機銃掃射ぐらいにしておけ。俺たちのやったことはレイラがやったことになる。あくまで専守防衛に徹しろ!」
「ザック、指示は守るけどこのまま防御一辺倒で終わるつもり?」
俺は〝フッ〟と吹き出すとアキラに言った。
「アキラ、そんなわけないだろ。明日の婚礼の儀が終わればイングヴェイ王のお墨付きだ、もうレイラに手は出せないだろう。それからスペンサー卿には倍の仕打ちをくれてやる!」
「そうこなくっちゃ!」
その時だった、インカムからデュランダル号のコクピットで警官音が鳴っているのが聞えてきた。
「ザック、こっちに向かって三つの熱源が接近…これ…大きさと熱量…戦闘車両。…ザック、戦車3台接近!待って、別方向から他の熱源接近…これはトラックね…」
「アキラ、〝デストロイヤー〟すぐに下ろせるか?」
「もちろん!いつでも投下できる。」
「ではホテルの南側、正面玄関前に下ろしてくれ。それと敵の配置が読めるか?」
「デストロイヤー投下…今。配置、配置と…戦車はまとまって南側に停車。今のところ展開する様子はないね。三台で正面から突っ込むつもりかも。トラックは…三方に別れた。東側に1台、南側戦車の後ろに1台、そして西側に1台。各トラックから20名程度の戦闘員が降車した模様。アキラ、そろそろデストロイヤーが地表に着くこよ。」
メインエントランスに近づくと入口は既に指示通りバリケードが構築されていた。俺は近くの窓から外に飛び降りた。そのタイミングで目の前に三つのパラシュートに支持されながらデストロイヤーが舞い降りた。
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