第11幕 第三王子
美しい敬礼をしながらデイビット王子が弟と紹介した男性は言葉を発した。
「王立陸軍第一空挺部隊、ローレンス・スピアーズ少佐です。」
敬礼の姿勢のまま彼は更に続けた。
「あなたの名声は私も聞き及んでおります。お会いできて光栄です。デアデビルズリーダー、ザック。」
そう言うと彼は敬礼を解き、右手を差し出した。俺は握手を交わしながら彼を見た。軍服の下、筋骨隆々という訳ではないが長身に引き締まった体。そして何より眼光鋭く一目で切れ者と分かる面構えだった。しかし俺がそうした値踏みをしたのに気付くと彼は表情を崩し、そのナイフのような気配を消した。
「まあ、ローレンス。久しぶり。」
背後からレイラの声が聞こえた。
「
柔和な笑顔でレイラの呼びかけに答えながらローレンス王子はレイラに近づくとと挨拶の抱擁を軽く交わした。しかし抱擁も挨拶もそこそこにローレンス少佐はデイビッド王子に語り始めた。
「今晩、一条レイラ様が宿泊する為に用意されたホテル…もちろん由緒あるホテルだが選定にあたり裏で王立第一ギルドが関与していたという情報が入った。」
「スペンサー卿か。」
デイビッド王子が漏らした声にローレンス少佐は頷くと話しを続けた。
「ホテルのロケーションが悪い。一見海を臨む断崖の上に立つリゾートホテルだが襲撃する側からするといろいろと都合がいい。まず郊外にあるためにそこまでの経路で襲うチャンスがある。そしてそこで失敗してもホテルの周りには民家もなく、それなりの人員をかけてホテルを襲撃したとしても一般人を巻き込む事もない。」
二人の王子の間に暗い沈黙が流れた
「といって明日の婚約の儀に向けて逃げ隠れするわけにはいかないんだろ?」
俺は陰気な雰囲気を吹き飛ばすように二人の王子の会話に入り込んだ。俺は続けた。
「それじゃ受けて立つしか無いじゃ無いか!向こうだって軍隊じゃないんだから機甲師団や爆撃機で攻めてくるわけじゃないだろう?マスコミの目もある、後々言い逃れができるようできれば誰かに暗殺されたとか過激派に襲われたといった
周囲から〝おーっ〟と同意の声が上がった。ローレンス少佐が連れてきた小隊メンバーも迎賓館の中から顔を出している警護の者たちも士気が上がった、これならいけそうだと俺は感じた。俺は号令をかけた。
「よし10分後に出発する。移動準備にかかれ!」
すぐさまローレンス少佐が反応して指示が飛んだ。
「バイク2台先行。レイラ一行を2台の装甲車で前後を固めての移動警護。遭遇戦からの白兵戦を想定しての対人武装。」
ローレンスの部下たちは2台の装甲車に駆け足で集まり準備を始めた。俺も自分の準備に取りかかった。
アサルトバッグに装備を突っ込んでいるとデイビッド王子がレイラと手を携えて近づいてきた。
「ザック。僕はしきたりで今晩は父王のいる王宮で過ごさねばならない。レイラを頼みます。」
俺は準備の手は止めず、デイビッド王子に向かって深く頷いた。
「ローレンス王子の助太刀は何よりありがたい。」
「それでスペンサー卿が襲撃を諦めてくれるといいのだが…」
デイビッド王子の漏らした言葉に、俺は
「スペンサー卿とさっき話をした。かなりの自信家で言い出したことは絶対に曲げない性格と見受けられた…必ず押し出してくる。」
そこへナカムラがやってきた。ひどく怯えているように見えた。
「私たちは拳銃程度しか持っていない。金は払うんだ、ちゃんと守ってくれるんだろうな。」
俺はその
「契約では俺が守るのはレイラであってあんたじゃない。あんたの仕事もレイラを守ることじゃないのか?もちろん敵でない以上レイラを護衛するという目的の延長上での護衛はする。だがまずは自分の勤めを果たせ!」
ナカムラは不服そうな表情を浮かべながらも言い返すことはせず、レイラが乗車する予定のリムジンに向かって歩き出した。SPらによる護衛の手筈では、レイラを乗せたリムジンの前後にSPの車が一台ずつ付いて3台の車列で移動する予定だった。先程のローレンス少佐の指示ではさらにその前後に装甲車が付く形で車列を組むつもりなのだろう。
出発の時間が迫り、デイビッド王子がレイラを固く抱きしめた、がその抱擁は一瞬でレイラはデイビッド王子の腕から離れるとリムジンに向かった。俺はそんなレイラの後に続くサラに、目で〝頼んだぞ〟と合図した。サラは左手の親指を立てると大きく頷き、レイラの後からリムジンに乗り込んだ。その視界を遮って目の前に1台の軽装甲機動車が停まった。後席にはローレンス少佐が乗っていた、指揮車両なのだろう。
「ザック、乗りますか?前方の装甲車の後ろに付きます。」
「頼みます。」
そう言って俺はアサルトバックを抱えると車に飛び乗った。シートに着くなり車は発進した。俺はブレスレットに話しかけた。
「アキラ、移動を開始した。トレースできてるか?」
「バッチリ!それよりザック、俺も降りて護衛に参加しちゃダメかい?最近生活に爽快感が無くて。」
「お前が期待するサムライソードを振り回しての近接戦闘が必要な状況ということは護衛任務がほぼ失敗している事を意味している。そうさせない為にも上空からの援護、頼んだぞ。それと…ストライダーを出す準備を。」
「ちょザック、待ってよ。一人で仕掛けるつもり?」
「あくまで警護、専守防衛が基本だ。だが展開によっては必要になる場合もある。」
「…分かった。無理はしないで。ザックにもしもの事があったらこの街ごと灰にしてやる!」
「大丈夫、そんな事にはなりゃしない。」
俺はそれだけ言うと無線を切った。
「部下に愛されてますな、ザック。」
隣に座るローレンス少佐が前方を見つめたまま話しかけてきた。無線のやり取りを聞いていたのだろう。
「いや、ド派手な事が好きなヤツで。〝街ごと灰〟などと失礼な事を申しました。お許しください。」
ローレンス少佐は俺に顔を向けると〝ニヤリ〟と笑って会釈を返した。
俺は早速情報の収集に取りかかった。タブレットにレイラが宿泊を指示されたホテルまでの道筋を出して確認を始めた。すると一箇所気になる場所があった。自然公園の中を突っ切る場所がある。街中を抜けたとこにあることからも人を配置して襲撃するならもってこいの場所に思われた。俺は所持品からインカムを取り出し装着するとアキラに話しかけた。
「アキラ、以後インカムから指示を出す。」
「了解、感度良好。」
「ホテルまでのルート上に自然公園がある。先行して索敵。何か異常あれば報告するように。」
「了解。」
俺はローレンス少佐に顔を向けると何点か確認を求めた。
「少佐、この先の自然公園は待ち伏せするには絶好の場所だ。ホテルまでのルートを変更できないか?」
「できない。」
「それは何故か?」
「襲撃者が本気で襲撃を考えているなら、いざとなれば場所がどこだろうと襲撃してくるだろう、街中でも住宅街でも。その点、自然公園での戦闘であれば一般市民が巻き込まれる可能性が少ない。我々市民を守る軍人にとって市民をより危険に晒す選択肢は選べない。」
「今回の少佐の行動には王立陸軍の全面的なサポートがあるのか?」
「私の単独行動とまでは言わないが、全面的なサポートがあるわけではない。現在行動を共にしてくれている者は、いざとなれば私と一緒に軍から罰を受ける覚悟を持ってくれた部隊内の志願兵だ。よって我々以外の軍のサポートは無いと考えていただきたい。」
その時だった、インカムからアキラの声が聞こえた。
「ザック自然公園内に赤外線反応あり。敵性の有無を確認するまで進行を減速または停止…〝ビーッ〟〝ビーッ〟」
アキラの報告がデュランダル号内に響くアラーム音で遮られた。その時だった、ローレンス少佐が前方を指さした。前方で地面から空に向かって光跡が幾筋か伸びるのが見えた、対空だ。光跡の伸びるその先から今度は別の火球が連続で浮き上がった。デュランダル号がフレアを放出しながら回避行動を取っているのだ。
「全車停止、周囲からの攻撃に備えろ。」
ローレンス少佐が指示を出し、俺の乗る軽装甲機動車も停止した。俺はドアを開け外に飛び出すと前方の上空を睨みながらインカムでアキラを呼んだ。
「アキラ無事か?返事をしろ。」
「RPG(アールピージー)!」
誰かが叫んだ。俺は咄嗟に地面に伏せた。爆音と熱風が俺の体を地面から引き剝がそうとしたが何とかこらえた。爆音で耳が〝キーン〟と鳴って何も聞こえない。俺は起き上がると無意識にホルスターからS&Mを抜いた、敵襲だ。
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