第7幕 デイビッド・スピアーズ
俺たちを乗せた専用機はスピアーズ国の首都C・O・S(シティ・オブ・スピアーズ)にあるCOSエアポートに遅れることなく着陸した。俺はエプロンに向かうタキシングが始まると機内で目を通した資料等をバックに詰め込み、後でレイラのホテルに届けるよう託した。そして先程着替えたスーツの下、右脇下のホルダーから愛銃、S&W/M 19を一旦取り出し、目視ではあったが異常がないか確認した。装填できる弾は6発と少ないが、何より故障が少なくメンテナンスも簡単で俺が命を預けられるのはコイツしかいないと考えていた。
エプロンで専用機が停止すると俺たちは行動を開始した。俺は機内で最後の確認をを行った。
「俺を先頭にその後ろ1.5m離れてサラ。レイラさんはそのサラのすぐ後ろ、というかサラはレイラと腕を組んでの近接護衛。ナカムラ以下はその後に遅れなく!」
サラとレイラが頷いた。
専用機の扉が開くと早足で移動を開始した。ボーディングブリッジを通って空港施設内に入ると地上係員が声を掛けてきた。レイラ一行である事を告げると〝こちらです〟と先導するように歩き始めた。ナカムラからの説明では、空港には公にされていないVIP用の目立たず移動できる通路があり、その通路出口に大使館の車が2台待せてあるのでそれに分乗してホテルまで移動する手筈だった。しかし俺は違和感を感じた、目立たない感じが全くしない。俺たちというかレイラを見て歓声を上げる一般人までいる。俺は先導する地上係員に確認した。
「こっちで本当に合っているのか?」
地上係員は振り向くと笑顔で答えた。
「間違いございません。デイビッド王子から直々にお話を伺っております。」
「待て!」
事がナカムラの説明通り進んでいない事を確信し、俺は右手を上げてサラに立ち止まるよう指示した。その時だった、辺りが一斉に明るくなった。四方からライトが向けられたのだ。逆光で視界が遮られる中、俺はレイラを身を挺して守るべく数歩
「デイビッド王子ね、あれ。」
真横で聞こえたサラの声に反応して俺はサラとレイラを
「こういう身の危険も恐れず婚約者を助けにくる王子とか、いけ好かないわー。」
サラは腕組みをしながら吐き捨てた。レイラはデイビッド王子の腕の中で嬉しそうに何か話している。俺は完全には用心を解かず、二人の視線に捉えたまま後ろにいるナカムラを呼んだ。返事がないのでナカムラをみると〝ポカン〟口を開けて固まっているので、このド派手な出迎えを事前に知らされていたのか問い
二人はひとしきりカメラのフラッシュを浴びながら親しげに会話をした後、デイビッド王子は聴衆に手を振ると体の向きを変え、レイラとガッチリと腕を組みながらこちらに歩いてきた。俺は聴衆に背を向けた瞬間からデイビッド王子の表情に緊張が走るのを見逃さなかった。
俺の前まで来ると王子は右手を差し出して言った。
「詳しい話はあとで、私が用意した王家所有のリムジンがあちらに停めてある、どうぞそちらに。」
俺は右手を握り返して短い握手を交わしながら言った。
「ここは貴方に素直に従った方が良さそうですね。」
俺たちは手を繋ぎながら聴衆に手を振り応えるデイビッド王子とレイラの後に続いた。何台ものテレビカメラが、あるものは待ち構え、あるものは追いかけ二人の映像を流している。これがスピアーズ王家の人気なのかそれともデイビッド王子の人気なのか分からないがすごいとしか表現のしようがなかった。
しばらく歩くとセキュリティポリスに固められたリムジンが見えた。10人に満たない俺たち一行が一度に乗れそうな大きなリムジンだった。王子たちは歩みを緩めず開けられた扉から飛び込むようにリムジンに乗り込んだ。俺たちも後に続いて急いでリムジンに乗り込むと早々に扉が閉められリムジンが動きだした。
見るとデビッド王子が肩で息をしていた。聴取の前では笑顔を振りまいていたが極度の緊張の中にいたのだろう。
「あなたが宇宙に名高い
そう言ってデイビッド王子は俺に胸に手を当てると椅子に座りながら丁寧なお辞儀をしてきた。俺はこの展開を事前に知らされなかった事について文句を言おうと口を開きかけたがデイビッド王子に制された。
「ええ、分かっています。事前にお知らせしなかったのはお詫びいたします。ただご理解いただきたい。レイラが空港のホテルで襲撃された事は、レイラから直接携帯端末を通じて報告がありましたし、王立諜報部からも緊急連絡という事で私に情報が入りました。私はレイラの婚約者として、また和泉国の要人を迎える王家の人間として何ができるか必死に考えました。そして私が思い至った答えは我が国内で相手が最初の襲撃チャンスと考えているであろう空港からホテルまでの移動の間、私がレイラの盾となる事でした。」
「ご自分のご身分を考えたら無謀だったとお考えになりませんか?」
サラが口を挟んだ。
「レイラにもしものことがあったら。私はこの世に生まれてきた意味を失う。」
そう言うとデイビッド王子は寄り添うレイラに優しい視線を投げかけた。
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