#7.7 "決闘の行方"

クレフは、プロトウェポンを銃形態に切り替えた。

そして、後方へ一気に跳び去りながら、銃を撃つ。

光弾が放たれた。

その一撃を、デュエルウォーメイルは左手の剣で防ぐ。

斬るように光弾は弾かれた。

クレフが着地する。

全く隙を与えず、銃を撃つ。

距離を取ることで獲得した優位を逃さぬように。


「甘いな!」

対してデュエルウォーメイルは構わず前進。

飛来する光弾を、両手の剣を巧みに操り、切り捨てていく。

クレフの銃は二本のウェポンのうちプロトの方のみ。光弾の連射数には限りがあり、デュエルの双剣で対応できる程度だ。

足は止まらず、クレフとの距離は詰まる。


だが、クレフは退かない。

先程後退したのは、あくまで一時的に距離を取るため。次の攻撃への布石でしかない。

この戦いに、この戦争に、『逃げ』という選択肢は最初からない。

『守れる』か、『守れない』か。ただ、その二つがあるだけだ。

デュアルウェポンを握ったまま、右手でサモナーのレバーを引く。

「プライムバースト」

電子音声が宣告する。

そして、解放されたエネルギーの行き先は、那一の意思で選択する。

オメガプライムが流入するのは二つの武器のうち、左手に握ったプロトウェポンのみ。


銃口に宿る光。その眩さに、デュエルウォーメイルは襲い来るものを理解する。

直後、流れる光の奔流。

破壊エネルギーの塊が、デュエルに迫る。

膨大な光はその姿を呑み込もうとする。

だが、彼は呑み込まれはしなかった。

「ラアァァァ!」

裂帛の気合と共に、本の剣を交差させて体の全面に構える。その斜め十字型の構えに、クレフが撃った大径のエネルギー線が当たる。

だがデュエルもまた、剣自体の攻撃力を増すために、流すオメガプライムの量を上げている。双剣は今や激しく輝いていた。

もはや巨大なレーザーと化していたエネルギー線だったが、拡散してウォーメイルの後方へと流れていく。

光の洪水の中を逆らって、デュエルは走り続ける。

その源へと向かって、耐えながら進み続ける。

やがて、エネルギー線が尽きる。

光は消えていき、もはや阻む物はない。

そして彼は既に、クレフの目前に到達していた。

右手の剣を振りかざす。

その剣はまだ輝いている。


クレフもまた、迎撃準備を終えていた。

プロトウェポンから放たれた『プライムバースト』が終わった瞬間、クレフの右手は再びサモナーのレバーをまた引いていた。

「プライムバースト」

それは、数秒前と同じ音声。

だが、リミッターが外れたオメガプライムが流れる先は違う。

そして、クレフが右手を動かした。

右手には剣状態のデュアルウェポンが握られている。

その剣を動かし、敵が振るった剣の軌跡の途中に滑り込ませる。

『プライムバースト』によってエネルギー量が跳ね上がり、ウェポンの刀身は大きく輝いている。


そして、輝く剣と剣がぶつかる。

これまでに幾度となくぶつけてきた時とは、互いに内包するエネルギーが違う。

激突した瞬間に散った閃光はこれまでの比ではないほど飛び散り、衝撃が周りに伝わり、土埃と砂利が舞い上がった。

生じる均衡状態。

互いの剣が相手を押し留める。

その最中、デュエルが左手の剣を振った。

こちらの剣も同じく輝いており、その光量が攻撃力を示していた。


デュエルウォーメイル、つまりペイル・メイラーは一瞬、この左の剣に対抗する術がクレフにはないと、そう考えた。

互いの右の剣が拮抗して封じられている今、多量のオメガプライムを流したこの剣を防ぐことはできないはず。

そう思った。

クレフの左手に握る銃、その銃口から溢れる光を見るまでは。


「何だ?」

思わず口をついて出た、驚きの声。

クレフの先程の『プライムバースト』。

あれは、剣のデュアルウェポンのみにオメガプライムを流したのではない。

同時に、銃形態のプロトウェポンにも再びエネルギーをチャージしていた。

『プライムバースト』に次ぐ『プライムバースト』。

銃は流入した高エネルギーを、再び吐き出そうとしていた。

それでも、デュエルは剣を振り切る。

その剣に向かってプロトウェポンの銃口が向けられた。

剣がクレフの胴を切り裂くのと、プロトウェポンがレーザーを射出するのは、完全に同時だった。

光が、二体を包み込んでいく。

射出された光線は斜め上へ駆けて、市街地のビルよりも高い上空で、自然に消滅した。


光が消えていく。

デュエルウォーメイルも、クレフも、互いに吹き飛ばされた。

その間は大きな距離が空く。


倒れたウォーメイルの全身からは、火花が散っている。

受けたダメージは大きい。

だが、それよりも。

「一本、失ったか」

そう呟いた視線の先には、左手に握っていた剣。

刀身は今、根元からひび割れていた。

もう役には立たない。

デュエルは上体を起こした体勢で、前方遠くのクレフを見る。


そのクレフもまた、かなりのダメージを受けていた。

胴の部分には敵の剣を受けた裂傷。

そして、全身に浴びた、自らが撃ったレーザーの余波。

至近距離での高威力射撃はやはり諸刃の剣だった。

それでも立ち上がる。

左手に握っていたプロトウェポンは、銃形態だったが銃身はひしゃげて使い物にならなくなっていた。

クレフは未練なくそれを投げ捨てた。戦闘が終わったら回収して修理する必要があるが、今は、役に立たないのなら重荷になるだけだ。

前を見ると、敵のウォーメイルも立ち上がろうとしているのが見えた。その左手の剣は割れ、やはりそれを手放すのが見えた。

互いにボロボロで、武器も片方失った。


クレフが残ったデュアルウェポンを両手で握りしめた。

デュエルウォーメイルも、残った一本の剣を両手で構える。

互いに同じ構えで、剣一本で勝負に臨む。


「これで決めるぞ、クレフ!」

生き生きと、ウォーメイルはそう言った。

それに対するクレフの返答は予想通り、無言。


ウォーメイルが足を踏み出し、駆けながら、使用可能なオメガプライムの全量を手の中の剣に込めていく。

クレフも走り出した。走りながら、一瞬左手を剣の柄からは放し、代わりにベルトのレバーを握る。

『プライムバースト』

今日三度目のリミッター解除。

体は悲鳴を上げているが、その痛みを黙殺し、クレフは駆け抜けた。

眼前の敵に向かって。

溢れ出るオメガプライムを、その剣に乗せて。


二体はほぼ等距離を走り、そして互いの攻撃可能領域へと足を踏み入れる。

光り輝く剣が二振り、激突した。今までで最も大きな、閃光が迸る。

力を込めて、互いに敵を斬らんとする。

刹那。

生じた拮抗。

時間が停止したかのよう。

やがてバランスは崩れ、天秤は片方に傾く。

デュエルの剣に、稲妻のようにヒビが走っていく。

そして、一瞬で砕けた。

ぶつかり合っていた物が砕けたことで、クレフの剣が一気に目標を斬り裂く。

オメガプライムで構成された実体無き刃が、ウォーメイルの橙色の装甲を、斜めに走る。斬線から大きく火花を散らす。

「見事だ、クレフ」

そう満足げに言い残した直後に、デュエルウォーメイルは爆発した。

距離を取って退避したクレフまで爆炎は届かない。


炎の中で、光がペイル・メイラーを包み、そして彼はオルフェアに帰還した。

一切の未練なく。

残ったクレフは、戦った相手の残骸がまだ燃えている中、誰もいなくなった戦場に立る。

「戦闘終了」

そう、本部に連絡を入れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る